第108回看護師国家試験を味わう連載。今回は日看学協からの物言いはなかったものの、厚労省が「採点除外等」とした問題。
病気と政策の狭間で
平成27年(2015年)の日本の結核対策で増加が問題とされているのはどれか。
(第108回看護師国家試験(午前33)より)
国家試験対策における結核は感染経路(飛沫核感染、空気感染)とツベルクリン反応におけるブースター現象ぐらいでしょうか。疫学から、それも現在の事情を問うてくるとは予想外。そんな問題ですから作る方も不慣れだったのか、ついやってしまったのかも知れません。
厚労省が「設問が不明確で複数の選択肢が正解と考えられるため」として正答を3もしくは4としました。
「平成27年(2015年)の日本の結核対策」とまで書かれているので、そのものがあるのかと探したのですが見つかりません。では統計から解いていきましょう。選択肢1, 2はザックリ言って「最近、結核患者は増えてるの?」という問いで、答えは「いいえ、減ってます」となります。ここは感覚的にも辿り着けるところかと思うので、試験問題として結局は難度が低かったことになります。詳細な数字は「平成27年 結核登録者情報調査年報集計結果」、あるいは最新版「平成30年 結核登録者情報調査年報集計結果」をご覧あれ。
結核を初めとする感染症には、必ず感染源があります。どこかからやってきた細菌やウイルスが人体に入り込むことをきっかけに、その人は患者への道を歩み出します。この問題で問いたかったのは、結核患者減少の傾向を維持していく中で*1危険な要素はどれかということじゃないでしょうか。つまり、新たな感染源として警戒すべきはどれか。当初想定されていた正答は3だったのでしょう。
国内では結核はもはや珍しい病気と感じる人が多いかと思います。しかし世界的には現在も猛威を振るっている病気の一つ。今も新たな患者が1,000万人/年で増えており、150万人/年がなくなっているとWHOは推計しています。世界人口は75億人と見積もられていますから、その0.13%、1000人に1人は新たに結核患者となっているという勢いです。2016年時点で世界の死因第10位に入るほど。
外国人労働者や外国人観光客の増加をもくろむ我が国が結核において注意しているのは、「外国」が持ち込まれること。つまり選択肢3です。「平成27年 結核登録者情報調査年報集計結果」でも「平成27年の外国生まれ新登録結核患者数は1,164人であり、前年から63人増加した」とわざわざ解説されているように、近年の集計結果では必ず明記されています。平成30年度版では「外国生まれ新登録結核患者数は、前年から137人増加して1,667人」ですね。やはり意図した正答は選択肢3だったのでしょう。
意外と身近な結核
選択肢4の「新登録結核患者における20歳代の割合」についても統計から解いていきましょう。厚労省の結核(BCGワクチン)ページより上述の年報「結核登録者情報調査年報集計結果」を何年度分か開いて、2000年(平成12年)以降を新規患者数とともにグラフにしてみました。
全体として新登録結核患者数が減少を続ける中、2013年以降、20歳代は横ばいです。そのせいで割合としては増えてしまっている。ここで問題の2つめの正答である選択肢4が導かれるわけですが、問題作成者には全体としては減っている傾向と、2013年までの流れが頭にあったんでしょうか。
近年の新規結核患者数の減少は高齢者によるもので、若年層は全然減っていません。同年報から新登録結核患者数を年齢階級別にグラフにするとわかりやすい。
高齢者世代においては結核が蔓延していた戦争直後までの世代が抜け、戦後の結核を減少させてきた世代に入れ替わっていくので、劇的に減っています。しかし結核を過去の病気として生きている年齢層では意外と結核が減らせていないんですね。これを前述の外国からの流入に影響されていると見るか、高齢患者からの感染が防げていないと見るか。数から言えば圧倒的に後者。外国生まれ新登録結核患者(全年齢)1,667人に対し、日本生まれ新登録結果患者(60歳以上)9,137人。5倍以上。今の日本がまず警戒すべきは高齢者からの感染拡大なのでしょうが、政治的に、高齢者を遠ざけかねない注意喚起は難しい。ただでさえ足りていない介護員が減るようなことは避けたく、かといって高齢者介護にかける金など増やしたくもない。そんなところでしょうか。
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