夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

感染予防のため、COVID-19に関わる看護師を避けるべきか

COVID-19の大流行が続く中で、途切れることがないのがCOVID-19に関わる医療従事者に対する差別事件。医療従事者の中で最大派閥を誇る看護師にそのたまは直撃しておりまして、Google先生に聞くとそんな事件を報じる記事が山ほど出てきます。ここまでのまとめはこれでしょうか。

偏見・差別等の実態

医療機関介護施設やその従事者、家族等への差別的な言動

・感染者が発生した医療機関及び医療従事者等に対する誹謗中傷、暴言、苦情、職員への嫌がらせ

・医療従事者等の子どもに対するいじめや一部の保育所等での登園拒否等

内閣官房 新型インフルエンザ等対策有識者会議 - 【概要】偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループこれまでの議論のとりまとめ より)

COVID-19に関する偏見や差別の筆頭に挙げられております。

ここでちょっと考えたい。誹謗中傷やら暴言は法的にすら話になりませんが、COVID-19に関わった医療従事者を避けんとする行為の是非を。理路整然と、願わくば科学的に考えたい。同行為がCOVID-19の罹患率を下げうる行為なのか、そうでもないのか。

医療方面ってのはどうもここが苦手らしく、科学的、evidence basedであることが重要と説きながら、己のこととなると愛のままにわがままに僕は僕だけを傷つけない主張をなさいます。そのせいか本件も医療方面からの訴えが聞こえないので、場末の当blogで取り上げましょう。

COVID-19に関わった医療従事者の罹患率を調べた大規模調査が発表された

先月下旬、まさにこの話題にぴったりの論文がThe BMJに発表されました。The BMJは国際的にも権威のある医学誌*1。ここに掲載された注目の論文がShah Anoop S V, Wood Rachael, Gribben Ciara, Caldwell David, Bishop Jennifer, Weir Amanda et al.「Risk of hospital admission with coronavirus disease 2019 in healthcare workers and their households: nationwide linkage cohort study」です。私のようなひよっこにも優しいabstractが付いており、結論はここでわかります。そいつをさらにまとめるとこんな感じ。

  • 英国スコットランドにおいて、158,445人の医療従事者およびその家族229,905人と、それ以外の人々とで、COVID-19により入院に至るリスクの差を調べた
    • グループ1: COVID-19患者と対面しない医療従事者とその家族
    • グループ2: COVID-19患者と対面する医療従事者とその家族
    • グループ3: 医療従事者でも、医療従事者の家族でもない人
  • グループ1とグループ3のリスクは似たようなもの*2
  • グループ2とグループ3のリスクには差があり、グループ2の方がザックリ言って1.5~3倍の確率でCOVID-19により入院している*3
  • とは言えグループ2のうちCOVID-19で入院に至ったのは0.5%以下の人

おもしろい数字ですね。

結論としては、避けるべき

感染症対策の基本の一つは、感染経路を有した形で感染者に近づかないことです。COVID-19/SARS-CoV-19の場合で言えば、感染者の飛沫を浴びるような距離に近づかない、感染者と接触するような距離に近づかないことです。いわゆる濃厚接触、close contactsを避けるってことですね。

よって理路整然と話をすれば、COVID-19に関わる看護師、医療従事者を避けるという行為は、感染対策として有効だと考えられます。

ただ、繰り返しますが、接触を避けることと、誹謗中傷することは全く別です。ひっくるめて、そっと遠ざけるのが正解でしょうか。

前回の話ではありませんが、その辺が差別と区別の違いなのかも知れません。

一例として秋田県は「NO!コロナ差別 ~感染した方々にはやさしさを ウイルスと闘うすべての方々に感謝を~」なんてキャンペーンをやっています。一例と申した通り、どこも似たようなことをやってますし、主張していますね。しかし感染症を克服するのに必要なのは優しさや感謝ではありません。理路整然と、願わくば科学的に考えた対応でしょう。優しさや感謝といった感情に訴えることは、正義を抱えた確信犯を呼び出すことに他なりません。それはとても危険なことだと、私たちは歴史として学んできましたよね。

こーゆーことを言うと4/3の純情な感情によって「あなたが避けられたらどう感じますか」みたいなキラキラした質問を送りつけてくださる方もいらっしゃいますが。繰り返しますが、必要なのは理路整然と、願わくば科学的に考えた対応。避けられることにどうと思うことはありません。感染拡大の可能性が低減させられるのでよかったな、ぐらいですよ。

妊婦マークみたいに「COVID-19診療に関わっています」マークとかあったらいいんじゃない。

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*1:Wikipediaブリティッシュ・メディカル・ジャーナル

*2:医療従事者につき hazard ratio 0.81, 95% confidence interval 0.52 to 1.26、家族につき 0.86, 0.49 to 1.51

*3:医療従事者につき hazard ratio 3.30, 95% confidence interval 2.13 to 5.13、家族につき 1.79, 1.10 to 2.91