稚内北星学園大学を育英館に譲渡することを発表して約1年。今年はCOVID-19の影響で何もかもが停滞してしまいましたが、稚内北星学園大学の今後が発表されました。全国紙では育英館大学への名称変更と京都サテライトキャンパスの設置という昨年の発表の焼き直しみたいな内容のみが報じられました*1が、ここ稚内ではもう少し踏み込んだ報道がなされています。
かつての輝きを取り戻し、持続させる気なのか
12月11日、育英館および稚内北星学園大学の理事長である松尾英孝氏がオンライン会見を行ったとのこと。それを報じた稚内プレスの記事におもしろい内容があります。
サテライト校開設や新たな大学での学生募集に繋げるため情報メディア学部に今後、ドローン技術や世界各国で大会が開かれ成長分野である〝eスポーツ〟を学ぶ科目を導入する考えを明らかにし「eスポーツは日本の大学で学ぶところは少なく、稚内の大学で導入し若者が入ってくる魅力ある大学にして学生確保に繋げ経営の安定化と、世界で活躍する人材を輩出したい」と今後の展望についても語った。
これには驚いた。何に驚いたって、eスポーツを柱にするってところですよ。当blogでも何度か触れている通り、稚内北星学園大学はかつて、1990年代から2000年代にかけてはその筋で有名な大学でした。情報通信関連に非常に力を入れていて、IT方面の人間ならば大学名は知らずとも「wakhok.ac.jp」には見覚えがあろうと言えるほどです。詳細はWikipediaをご覧いただくとして。その当時の稚内北星学園大学は輝いていたわけですが、バブルの崩壊、全国的な少子化にとどまらず、稚内の人口減少、そもそも稚内の教育に対する熱の低さから、学生確保に難渋し、ついには開設時に費用を全面負担した市にも捨てられて現在に至ります。
情報通信関連は莫大な設備投資が要されます。それも、継続的に。それ故に稚内北星学園大学は長らえることができなかったとも言える中で、eスポーツを持ってきましたよ。教育関連の経営に慣れている育英館がこの手を打つことに興奮せざるを得ません。強気で投資を続ける覚悟があるのでしょう。
来年4月から開校する京都サテライト校と稚内本校を合わせた1学年の定員は50人。大学として今後、新たな科目を導入することで来年の新入生について松尾理事長は「30~40人を確保したい。新体制での2年目は更に学生を増やしていきたい」と述べた。
(同)
どうやら稚内からの学生はさほど期待していないといった風なのも、さすがにわかっているのだなと感じます。
遠く離れた私ですら知っていた稚内北星学園大学ですが*2、稚内の人たちからその輝きが語られることはありません。上述の通り、そもそも稚内の教育に対する熱はかなり低い。立地はかなり悪いわけですが、学生の4年間だけと考えれば、外から取ってこられると考えているのでしょう。
なお、現在の学生数は1年 16人、2年 45人、3年 29人 21人、計111人*3。30~40人はかなり強気な宣言です。現111人のうち、留学生がネパール34名、中国3名で、全体の3割強を占めます。中国色の強い育英館が留学生をどの程度入れてくるかも見物ですね。ただ、eスポーツとなると、中国の方が進んでるんじゃないかなぁ。
大学を大切にする弘前、大学を捨てる稚内
田舎に住もうと選んだ弘前と、稚内とで、何が違うかと言われれば、一つは大学を大切にしているか否かじゃないかと思っています。弘前も教育に対する熱が低く、中学生など部活ばかりに力を入れているところでした。が、何となく地元の大学、弘前大学、弘前医療福祉大学、弘前学院大学、東北女子大学(現柴田学園大学)への進学という選択肢*4が意識にあるようでした。その程度で弘前大学に行けると思うなよと思ったりもするわけですが、それはまた別の話。*5
一方で、稚内では稚内北星学園大学への進学などまず挙がってこない選択肢です。そもそも大学進学しない人も多いですし*6、進学となれば旭川、札幌へ出て行くのが当然です。
稚内北星学園大学改め育英館大学が輝きを取り戻したときに、稚内は変わるのか。楽しみに見守っていきたいと思います。昨年申した通り、稚内の教育に中国が食い込んでくることでどうなるのかってのも気になるところですね。
前のめりにいく計画は順延中
見守るだけでは飽き足らず飛び込みたいと思っていたわけですが、COVID-19大流行の影響で今年の市民聴講生募集はありませんでした。来年以降に期待しましょう。
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*1:日本経済新聞「北海道の稚内北星学園大、「育英館大学」に名称変更へ」
*2:2005年から2012年まで秋葉原クロスフィールドに東京サテライト校があったのは知らなかった。
*4:並んで弘前病院附属看護学校という選択肢もあるのが、これまた地域性だなとは思いました。
*5:大学短大進学率が46.2%にとどまるのはこの辺なんだろうね。(青い森オープンデータカタログ「中卒後・高卒後等卒業者の進路状況 令和元年」)
*6:稚内の大学進学率は2019年度42.0%(「令和元年度 稚内市統計書」)。全国では大学短大で58.1%、大学でも53.7%(「学校基本調査-令和元年度結果の概要-」)。