夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

第109回看護師国家試験を味わう(2) COVID-19に退路をふさがれた厚労省(午前33)

正解が発表される前に取り上げておきたかった、今回一番熱い問題。COVID-19がなければ、受験生や日看学協から物言いがつこうと、厚労省は点数調整込みでいい加減に対応すればよかったのでしょうが。COVID-19、SARS-CoV-2の感染を如何に防ぐかに通ずるこの問題、今や厚労省は文字通り模範解答を見せねばならない事態に。

旭川市国際交流センター COVID-19対策で椅子を撤去

昨今あちこちで見るあの姿、どんなだったかな?

クロストリジウム・ディフィシレ(ディフィシル)による下痢を発症している患者の陰部洗浄をベッド上で行う際の個人防護具を着用した看護師の写真(別冊No.3)を別に示す。

適切なのはどれか。

  1. A(撥水性のエプロン、マスク、手袋)
  2. B(撥水性のエプロン、マスク、手袋、ゴーグル)
  3. C(撥水性のガウン、マスク、手袋)
  4. D(撥水性のガウン、マスク、手袋、ゴーグル)

(第109回看護師国家試験 午前33)

写真は見ても見なくてもなので引用を省略。

まさか感染症大流行中にこの微妙な問題が出されるとは作成者も思わなかっただろうなぁ。こりゃなかなかおもしろいとにやつきながら解きました。

私は正解を3と考えますが、試験の技術として当日解答すべきは4でしょうね。

件の疾患はClostridium difficile associated diarrhoea(CDAD)、国内ではよくCD腸炎と呼ばれるものです。解説はメルクマニュアルにお願いしまして、解くにあたり押さえておきたいことは3つ。

  • CDADの院内感染を防ぎたい
  • CDADは接触感染、「下痢」からの接触感染を防ぎたい
  • 通常の陰部洗浄では選択肢1の装備(エプロン、マスク、手袋)

教科書通りの「通常の陰部洗浄(エプロン、マスク、手袋)」を出発点に検討します。この記事を書きながら通常の陰部洗浄がなぜその装備なのか*1と今更ながらに考えてしまいますが、今回はさておきましょう。あくまで試験問題を味わうのです。

通常の陰部洗浄では、糞便への接触感染対策をそこまで真剣に考えていません。腕ががら空きです。糞便からの距離は近い順に

  1. 手(手袋)
  2. 胸腹部(エプロン)
  3. 口鼻(マスク)

となります。腕は手洗いでもすり抜けるところですから、糞便の飛散物を腕で他の患者へと運ぶ可能性は低くありません。しかしそれでも問題ないと教科書が言っているのが通常の陰部洗浄です。

CDADの院内感染対策は患者 - 看護師 - 患者の経路で下痢、つまり糞便を介した接触機会をなくすこと。接触の可能性が低くもないのにがら空きだった腕を覆うのは絶対でしょう。よって、正解は3か4。

問題はゴーグルの存在です。守備範囲は眼。純粋に患者 - 看護師 - 患者の経路では、眼を介して糞便に接触するとは考えにくいのでは。そこまで言うと頭をキャップで覆わない理由が思いつきません。この話は逆に、なぜマスクが必要とやはり今更ながらに疑問が生じますが、上述の通りさておき。CDADの院内感染対策としてゴーグルを追加する価値は見いだせないだろうと。眼は口鼻よりも糞便からの距離が遠くなるため、腕とは異なり、不要としても矛盾は生じません。*2

よって私は3が正解だと考えています。

しかし試験の技術として当日選ぶべきは4。感染対策において「やり過ぎ」が感染予防力を落とすことはないからです。ゴーグルをしていなくても感染予防できるのならば、ゴーグルをしていても感染予防ができます。無難なのは4です。実運用においては「やり過ぎ」が感染予防力を落とす可能性はあります。手順が複雑になれば人間の誤りが含まれる可能性は高まりますからね。しかし、この手の問題においては運用上の誤りは考慮されません。

私に限らず3か4かは迷うところのようで、解答速報の時点でメディア出版が「問題番号33番の問題は複数正解または不適切問題の可能性があります。」と掲示。おなじみ日本看護学校協議会も「3と4の正解が考えられる」と意見を表明しています。

教室と現場の断絶に物言えるか

現場ではどうしてるの? って話になると。

  • 普通は1(エプロン、マスク、手袋)
  • 優秀なところで2(エプロン、マスク、手袋、ゴーグル)
  • ダメなところで選択肢未満(マスク、手袋)

院内手順書では最低でも1が定められていると思われますが、ね。

今回、厚労省が逃げずに正解を提示することで、現場に対しても影響があることを望みます。看護方面の現場は何かと教科書通りにやらない。このことは看護学生の時点で早くも気付くわけで、厚労省も当然知っていましょう。看護方面もevidence basedがどーのと偉そうなことを抜かしてらっしゃいますが、現状では口だけです。

そもそも教科書通りにやらない理由を察するに、看護師国家試験により厚労省がどんな正解を提示したかなんて現場まで伝わらないんでしょうけど。個人的に試験問題を解いてる人すらごく少数では。そんな世界に対して微力ながらも外圧として、望みを記しておこうじゃありませんか。

こんなのが気軽に使えたらいいよね。

参考: 教科書が示す陰部洗浄の必要物品

紙の教科書が手元にないため、ウェブから2つ。看護roo!とナース専科。いずれもPPEは、上述の通り「エプロン、マスク、手袋」です。

まずは看護roo!から。監修者は札幌保健医療大学保健医療学部看護学科 教授 小島悦子、北海道科学大学保健医療学部看護学科 准教授 久賀久美子。凄い肩書きが並んだな。

「陰部洗浄」の必要物品

(1)バスタオル (掛物等でも代替可)

(2)陰部用タオル

(3)ガーゼ

(4)石けん

(5)陰部洗浄用ボトル (38~40℃の湯を入れて使用)

(6)紙おむつ

(7)防水シーツ

(8)ビニール袋

(9)マスク

(10)エプロン

(11)未滅菌手袋

(12)擦式アルコール製剤

陰部洗浄(1) 物品の確認~患者さんの準備 | 動画でわかる!看護技術 より)

次いでナース専科。解説者は東葛クリニック病院 皮膚・排泄ケア認定看護師 浦田克美。比較的臨床寄りの人選。

物品の準備(一例)

ディスポーザブル手袋(未滅菌)

マスク

ビニールエプロン

交換用のオムツ

洗浄剤(高齢者や皮膚が脆弱な患者さんには弱酸性の泡タイプの洗浄剤が適している)

陰部洗浄用のボトル(38℃から41℃の微温湯を入れる)

清拭用タオル(おむつ交換のため)

便器(必要があれば)

拭き取り用のタオル(仕上げ用のタオル)

ティッシュペーパー

防水シーツ

廃棄物のバケツなどの容器やビニール袋

タオル(患者さんにかけるため)

陰部洗浄の目的・手順・観察項目〜根拠がわかる看護技術 | 看護に役立つ【ナース専科プラス】 より)

厚労省による正答発表後の続きはこちら。

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*1:手元に冊子の教科書がないため、ウェブからの引用を後ろに載せます。

*2:眼から消化管に入ることで、看護師が感染者、特に無症候性キャリアとなる可能性は考えられますが、CDADでそこまで問われるものだろうか。