夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

第109回看護師国家試験を味わう(3) Standard Precautionsを改めて問う(午前33 詳説)

昨日、予定通り第109回看護師国家試験の合格発表がなされました。合格率は89.2%、新卒者のみで94.7%といつも通りです。

当blogにおける注目はもちろん正答。まずは先に取り上げた午前33。

nsns.hatenablog.com

正解はフル装備、現場はどうする

クロストリジウム・ディフィシレ(ディフィシル)による下痢を発症している患者の陰部洗浄をベッド上で行う際の個人防護具を着用した看護師の写真(別冊No.3)を別に示す。

適切なのはどれか。

  1. A(撥水性のエプロン、マスク、手袋)
  2. B(撥水性のエプロン、マスク、手袋、ゴーグル)
  3. C(撥水性のガウン、マスク、手袋)
  4. D(撥水性のガウン、マスク、手袋、ゴーグル)

(第109回看護師国家試験 午前33、写真は省略)

厚労省の提示した正解は4です。

複数正解か不適切の可能性も含めながら、メディカ出版、メディックメディア、日本看護学校協議会、そして私も3が正解に入ってくるだろうと見ていましたが結果はこの通り。驚きました。当blogで試験では4を選ぶべきとした通り、試験を正解するのは容易ですが問題はその先です。ガウン、マスク、手袋、ゴーグルとフル装備でCDAD患者の陰部洗浄を行っている病院がどの程度あるのでしょうか。

COVID-19で感染制御に厳しい視線が注がれる中、厚労省がこれだけさらりと出してきたのですから正解を裏付ける何かがあるのでしょう。少し手を広げて調べてみます。当該問題を解くにあたり「通常の陰部洗浄はエプロン、マスク、手袋」という国内の教科書通りを前提としていましたが、ここから疑ってみます。

教えてせんだつさん

エプロン、マスク、手袋等はPersonal Protective Equipment、略してPPEと呼ばれ、その装着は我が国においてUSのCDCが定めたStandard Precautions*1によっています。こいつを改めて紐解いてみましょう。こんなとき、CDCはあれこれをウェブで公開しているので助かります。

該当するのはここですね。PPEとして3種が上がっています。後述の通り、3種ってのが重要。

  • Gloves
  • Gowns
  • Mouth, nose, eye protection

まず「Gowns」について。袖なしのエプロンではなく、袖ありのガウンである必要をおさらいします。ここは私が前回書いた通りですね。該当する記載を引用しましょう。

IV.B.3.

Gowns

IV.B.3.a.

Wear a gown, that is appropriate to the task, to protect skin and prevent soiling or contamination of clothing during procedures and patient-care activities when contact with blood, body fluids, secretions, or excretions is anticipated.

エプロンでは肌が露出している腕を防護できない。前回、今回と書いていて、むしろなぜ国内でエプロンが流行っているのか気になりますが、それはさておき。

次に「Mouth, nose, eye protection」について引用しましょう。そう、ここはPPEの名前ではなく、保護対象が書かれていること。そして繰り返しですが、1つにまとめられていることが重要です。

IV.B.4.

Mouth, nose, eye protection

IV.B.4.a.

Use PPE to protect the mucous membranes of the eyes, nose and mouth during procedures and patient-care activities that are likely to generate splashes or sprays of blood, body fluids, secretions and excretions. Select masks, goggles, face shields, and combinations of each according to the need anticipated by the task performed

マスク、ゴーグル、フェイスシールドの使用は露出している粘膜部である口、鼻、眼を保護するため。何をするかによって選択は変わってくるとのことですが、マスクとゴーグルはセットと考えてよいでしょう。PPEの一番の目的はPPE装着者を守ることであり、感染経路となりやすい粘膜を塞ぐのは理にかなっています。そして、顔面の粘膜の中で、眼だけを特別扱いする理由はありません。PPEとしてマスク、ゴーグル、フェイスシールドが1種と数えられるのは重要な考え方です。

ちなみにフェイスシールドというのはその名の通り、顔を覆う透明なお面ね。こんなの。

さて、問題のCDAD患者の陰部洗浄ではどうなるか。

教育資料の中に、状況別にどのPPEを着用すべきかの練習問題がありました。45ページ目より引用します。

Giving a bed bath? (generally none)

Cleaning an incontinent patient with diarrhea? (gloves and generally a gown)

Irrigating a wound? (gloves, gown, and mask/goggles or a face shield)

関係しそうなのはこの3つでしょうか。どうも、CDAD患者の陰部洗浄であっても、手袋とガウンでよさそうな感じです。例示ではただ「下痢」となっていますが、下痢の時点で感染も疑われるわけで、あえてそこを分けて考える必要はないのかなと。下痢の患者に多い、肛門周辺の皮膚破綻があったりする場合は、さらにマスクとゴーグル、またはフェイスシールドの装着が適当なのかな。排泄物も血液も感染性のものとして扱われますが、その間に危険度の差を見いだしているようです。

問題に戻って考える

Standard Precautionsから得られた情報を整理しましょう。

  • PPEとしては次の3種から選ぶ
    1. 手袋
    2. ガウン
    3. マスクとゴーグル or フェイスシールド
  • マスクとゴーグルは露出している粘膜保護のためであり、保護するのであれば口、鼻、眼の全てを保護するため、使用するのならばセットで使用する
  • 下痢患者の陰部洗浄では手袋、ガウンが適当

この条件を満たせる選択肢を探せば正解に辿り着けるはずです。

クロストリジウム・ディフィシレ(ディフィシル)による下痢を発症している患者の陰部洗浄をベッド上で行う際の個人防護具を着用した看護師の写真(別冊No.3)を別に示す。

適切なのはどれか。

  1. A(撥水性のエプロン、マスク、手袋)
  2. B(撥水性のエプロン、マスク、手袋、ゴーグル)
  3. C(撥水性のガウン、マスク、手袋)
  4. D(撥水性のガウン、マスク、手袋、ゴーグル)

(第109回看護師国家試験 午前33、写真は省略)

4しかありませんね。

いやはや、お見事。完敗、いや、乾杯と言うべきか。厚労省にしてみれば、勝手なStandard Precautionsを作って感染広げてんじゃねーぞ、ってところでしょうか。

教科書の謎に迫らねばなるまい

前回より疑問を呈している「通常の陰部洗浄ではなぜエプロン、マスク、手袋なの?」ってのがますます気になりますね。この辺は、そのうち。まずは適当な教科書を改めて買って、出版社に問い合わせてみますかねぇ。

余談ですが、Clostridium difficileは現在Clostridioides difficileとなっており、問題文で「クロストリディオイデス・ディフィシレ(ディフィシル)」と記さなくてよいの? って突っ込みがあるとかないとか。厚労省傷病名マスターが「クロストリジウム・ディフィシル腸炎」と、その元となっているWHO ICD-10 A04.7が「Enterocolitis due to Clostridium difficile」と定めていることを踏まえて「クロストリジウム・ディフィシレ(ディフィシル)」なのでしょう。それでも「ディフィシレ(ディフィシル)」と併記する理由は不明ですが。

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「教えてせんせいさん」って言える環境にはおりませんので、やはり、やるしかないのか。

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*1:教科書では「標準予防策」や「スタンダードプリコーション」と記されます。