夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

コンビニほど便利じゃない、救外は休外だよ

コンビニ受診」という言葉はいつ頃現れたのでしょうか。Google Trendsによれば2007年11月頃のようです。Wikipediaに「コンビニ受診」立項されたのも2007年12月です。どうやら11年ほど前に現れた言葉のようですね。

今ではすっかり定着した「コンビニ受診」という言葉、その行動を差し控えて欲しいと訴える医療関係者すら口にするのを見て私は悲しい気持ちになります。

今日はコンビニ受診の行き着く先、救急外来についてのお話。そしてコンビニ受診なんて存在しないんだよってお話。

雪の中、救急車は行く

救急外来って何?

「救急外来」とは、コンビニ受診に軸足を置いて説明すると、休日深夜も24時間営業している外来のこと。救急車で運ばれる先と言うとわかりやすいかな。

どこの病院*1にもあるわけではなく、ある程度大きな病院にだけあります。ここも、救急車が行く病院といった方がわかりやすいんでしょうかね。

「救急外来」という名は体を表しており、本来は、救急、つまり急な病気や怪我に対応する外来です。もっと言えば、急ぎ命を救うための外来です。ここからはその救急外来の実態を説明しましょう。

コンビニは何でも揃うけど、救急外来はあまり揃わない

コンビニの何が便利って、何でも揃うことですよね。値段はちょっと高いけれども、欲しいものはだいたいある。食料品は生鮮から弁当まで、日用品、衣料品、衛生用品、書籍や雑誌と充実しております。広さだけでなく深さも相当なもので、何か飲み物を買おうと行けば、迷うほど置いてあります。ものだけじゃなくてサービスもありますよね。複合機を利用したコピーやFAX、ATMでの入出金、キオスク端末でのチケット購入や各種支払いもできます。日常生活に必要な物事のだいたいをカバーしている気がしますよ。

一方の救急外来は、実は、あまり揃っていないんです。コンビニの売り物に対応するのは、薬剤でしょうか。限定的にしか置いてありません。急な病気や怪我で必要なものに絞られており、慢性的な治療に必要な薬などはありません。例えば「高血圧の薬」として患者が一定期間もらって内服するようなものは置いていないこともあります。また、サービスも限られます。検査がいい例で、基礎的な検査である血液検査やレントゲン撮影すら、すぐにはできない病院もあります。

救急外来にはコンビニのように何でもあるわけじゃないんですよ。むしろ病院全体の機能と比べれば、何かと足りない。

コンビニ店員はいつも均質だけど、救急外来の医師はいつも違う

コンビニの魅力は24時間、いつでも同じことです。店員の質についてもそれは言えることで、いつ行っても、店員の対応まで含めて均質なサービスが受けられます。例えば税金の払込票を持っていけば、いつだって同じように税金を収納してくれます。

しかし救急外来の医師は異なります。当番制で病院の医師から数人が、その日の救急外来を担当します。担当医師の専門は消化器内科かも知れませんし、呼吸器内科かも知れません。はたまた整形外科かも知れませんし、小児科かも知れません。診療科にかかわらず医師は医師ですから、救命に関わる診療はできます。しかし整形外科の医師が担当する救急外来で、以前から煩う心不全の相談をしても、循環器内科外来と同じ質の答えは得られないでしょう。

救急外来の医師には急ぎ命を救う以外の能力が保障されていません。改めて言うと、どの診療科の医師がいるかわかりません。

救外じゃなくて休外だから

我々医療関係者は、救急外来のことをよく「救外」と、「きゅうがい」と省略して呼びます。ただ、その実態は「休外」、「休んでいる外来」と言っていいかも知れません。平日日中の外来が持つ機能のほとんどは持ちません。救急救命に特化した最小限を持っているだけです。

コンビニ受診」と言えば、受診先の救急外来はコンビニのように何でも一通り揃う、一通りの診療が受けられるところだと思う方も少なくないでしょう。しかし実際には何も揃わない、自らの意思で受診するような場合に欲しいものは何もないようなところが救急外来です。

今「コンビニ受診」だと思い休日深夜の救急外来に訪れる人も、実は行く先がコンビニとは似ても似つかぬ不便な「休んでいる外来」だと知ったら、救急外来へ行かなくなるんじゃないかなと思うのです。実際、救急外来で「翌日外来を受診しろと言われた」、「いつももらっている薬がもらえなかった」と憤る声を聞きます。医療関係者は「当然でしょ、バカじゃないの」と一笑に付しますが、バカなのは医療関係者です。

私たちが「コンビニ受診」と言うことをやめない限り、彼らは正しい知識を身につけることなく、私たちは不要な患者の列に悩まされ続けます。だから私は、彼らが「コンビニ受診」と口にするたびに、悲しい気持ちになるのです。単純に「不要な救急外来の受診」ではいけないのでしょうか。

Dr.アシュラ (1) (ニチブンコミックス)

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何でもできるアシュラがいる救急外来ですら、命を救うことに限っているんだぞ。

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*1:ここでは法的な診療所と病院の区別は無視して、一括りに病院ね。