夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

看護雑誌で今夜も一杯 『日本看護協会機関誌 看護 2015年7月号』 第1夜

久しぶりに書きますか、二杯目のハイボールを飲みながら。実はこれ、夏休み前にネタを仕込んでいたんですけど、本業があんなヤバいことになるとは。結局、明けて初日にやっと書こうかなと。今なお来週の試験に向けてヤバいんだけど。

今回のネタは日本看護協会出版会 『日本看護協会機関誌 看護』 2015年7月号。お堅いの選んだねぇ。

看護 2015年 07 月号 [雑誌]

看護 2015年 07 月号 [雑誌]

看護学校の図書室ですから、当然あるんですよ。看護学生や若手看護師が対象だと思われるものも。『クリニカルスタディ』と『エキスパートナース』はそれかな。なぜか『プチナース』はないんだけど。

クリニカルスタディ 2015年 09 月号 [雑誌]

クリニカルスタディ 2015年 09 月号 [雑誌]

プチナース 2015年 09 月号 [雑誌]

プチナース 2015年 09 月号 [雑誌]

でもさ、そーゆーの期待してる? 少なくとも私は私自身に、期待してないんですよ。

さ、今回もよくわからんからおすすめ特集を味わおう。

長いものに巻かれないからここにいるのデス

2つある特集のうち1つ、特集1は「専門性を発揮し国民のニーズに応える! 「特定行為に係る看護師の研修制度」始まる」。おお、これはおもしろそう。ナスたま1年生的には授業で触れていない(おそらく再来週出てくる)範囲ですが、業界的には熱いところで個人的にも注目しています。

当然これだけの雑誌ですから背景を知っていること前提で書かれています。その部分についてちょっと触れましょう。

突然ですが、医師と看護師の違いは何でしょうか。すごーく簡単に言うと、できることが違います。医師は診断と治療ができますが、看護師にはできません。と書くと、具体的な話を愛するみなさまは、診断と治療とは何かを問われるかと思います。そこを、互いのできることを定めているのが医師法であり保健師助産師看護師法(通称、保助看法)です。そしてこの保助看法が昨年改正になりまして、今年2015年の10月から、看護師のできることが増えることになりました。

しかし単純に「できることが増えたのでやっちゃいまーす」では、治療と診断という命がかかっている場面では不安です。そこで増える部分の実施に当たっては専門の研修を受けて、あらかじめ定められた手順書にしがたいましょうってことになりました。なお、この増える部分を「特定行為」と呼びます。

ちなみに手順書は「プロトコール」と呼びます*1。「てじゅんしょ」ではありません。ここは殴っていいところです。

閑話休題。特定行為にどんなものがあるかは日本看護協会のページ、「特定行為に係る看護師の研修制度」よくあるご質問をご覧あれ。わかりやすいところでは動脈穿刺でしょうか。血液検査には通常、静脈血が使われます。看護師さんが採血しているのはこれなんですが、詳細な分析のために動脈血が必要な場合があります。こうなると実は、看護師は採血できないんです。動脈に針を入れる行為は上述を踏まえれば治療と診断の一部。医師が行う必要があります。え、そうなの? 何かおかしくない? その感覚の延長線上にあるのが、この特集。

何らかの基準があって医師と看護師の境目を決めたはず。それを今になってどうして変更するの? それも「特定行為」だなんて筋が悪くないか? とゆー問いに真っ先に答えているあたり、現役看護師も同じ疑問を抱いているんでしょうね。

なぜ法改正を求めてきたか

本制度における特定研修を終了した看護師の導入は、医療の効率性・効果性の向上に貢献すると大きく期待されています。検討が行われてきた特定行為は、侵襲性の高い医行為であり、判断と技術において難易度が高く、患者の安全性を担保するために、そして実施者である看護師の安全に不安なく実施するには法制化が不可欠であると考え、保助看法の改正を国への要望活動とともに、検討会においても主張してきました。

(p.44)

わかる? わからないよね。わからないように書いているのには理由があるんですよ。ちょっとした続きがありましてね。

「特定行為を行うことはミニドクター化であり、看護の視点から逸脱する方向である」という意見をよくいただきます。一見、そう見えなくもありませんが、しっかり読み込むと、決して医師の代替えのためにつくあっれたのではないとわかります。

(p.44)

現状、医師が足りないと年中ニュースになっていることを思い出してください。医師が足りない。しかし医師の増産は難しいのです。増産については看護師も同じです。概ね(誰かみたいなおかしなヤツ以外は)10代の若者が、医師や看護師になっていくわけです。10代、減ってるよね? がんばったって無理がある。さてどうしよう。「Qu'ils mangent de la brioche!」ですよ、パンがなければケーキを食べればいい。相対的には数が圧倒的に多い*2看護師でどうにかしようぜ、とゆー話です。

記事では思いっきり否定されているんですが、どうにもこうにも、そーゆーことみたいです。今、看護学校に通われている方はきっと、そう聞かされてすらいるでしょう。あ、この部分については何を言われようと反応しませんからね!

間接的には米国を見ているってのもあるようです。尤も向こうのナースは診断も治療も可能なレベルにあるんですが。ここで遊びに行って仕入れた知識が役立とうとは。

nsns.hatenablog.com

しかし一足飛びに米国並みは無理なのでってことではなかろうと、私は見ています。制度が違いすぎて後追いのしようがない範囲ってのが、この辺ではないでしょうか。あくまで参考でしょうね。

あれー、ここまでいつもと違う調子じゃないですか。何か説明しちゃってますよ、私。そろそろいつもの調子に戻りましょ。

尤もらしい理由までこさえて行う制度変更、念願叶っての特定行為実施なんだと私も思っていたんですけど。違うそうです。

今回の制度変更でおもしろいのは特定行為の実施に当たって研修が必須じゃないってこと。研修で免許の限定解除なんて話じゃないんです。研修でお墨付きがもらえたりするわけじゃないんです。ん? どゆこと? って思ったら。

特定行為の全てについて、現状で看護師が実施している例があるそうな。暗黙にね。もし「免許の限定解除」扱いにしてしまえば、現状実施しているところで少なくとも短期的に(おそらく中長期的にも)「やっていたことができなくなる」不便が生じます。だから研修受講者による業務独占とはしない。って、この特集に書かれてるんですよ。日本看護協会の機関誌で書いてあるわけですから、同協会のページにも。実は先ほどのFAQページにあるんです。しかしこちらはみなさん読まれますからね、巧妙に隠してますよ。

Q3. 特定看護師になるためには、どうすればよいですか。特定行為研修を修了すると、特定看護師になることができますか。

A3. 法律上、「特定看護師」という資格はありません。2011年に取りまとめられたチーム医療の推進に関する検討会報告書「チーム医療の推進について」において、「特定看護師(仮称)」の提案がされましたが、その後の議論を経て創設された「特定行為に係る看護師の研修制度」はあくまで研修制度であり、新たな資格をつくる制度ではありません。

「特定行為に係る看護師の研修制度」よくあるご質問 より)

アホか。甘ったれたことをやっているから医療業界は人々の信頼を得られないし、事実として事故をなくせないんじゃないのか。子供たちに夢見て医師を目指してもらわないときに、こんな体たらくでどうするんだよ。

んあ? 現状の実施で救われている命はどうするのかって? 移行期間を設けたらいいじゃないか。

政治としていろいろあることは察します。しかし、日本看護協会が堂々とこんなことを言っていいのか。反対するぐらいじゃなきゃいかんのではないか。永遠の17歳となった今も青い私は、訴えてしまうわけです。3年後、長いものに巻かれてたら笑ってやってくれ。

暗い気持ちになりながら次に行こうかと思ったのですが、ここまででだいぶ長いな。ってことで、続きはまた今度。さらにもう一杯二杯と飲みながら認めることとしましょう。

あ、気付いている人もいるかも知れませんが、ここまででとんでもない矛盾が1つあるんですよ。それについても次回ね。

nsns.hatenablog.com

*1:プロトコールだそうです。JISではプロトコルだけど、ここ、工業界じゃないから。

*2:従事者数としては看護師も足りないと言われていますが。こちらは免許がありながら従事していない人を引っ張り出そうとしています。