いやはや、この1年間は国家試験ネタをほとんど書けませんでしたね。来季は心を入れ替えてと言いたいところですが、またいろいろとあるからなぁ。それはさておき、間もなく第111回看護師国家試験。今回も予想問題を作りましたよ。
昨年までの分はこちら。
今回111回も第107回から引き継がれている「保健師助産師看護師国家試験出題基準 平成30年版」が適用されます。来年の112回から改訂版が適用になるという話*1ですが、どうなるんでしょうね。ま、今は気にせず今年の予想と行きましょう。
予想問題1 今を楽しみ、20年後の未来を見る
問題1
若年成人において咽頭痛、発熱を主訴とし、白苔を伴う咽頭炎を特徴とする疾患はどれか。
正解1
2
解説1
前回はCOVID-19関連の問題が来るだろうと狙ったのですが実際には1問も出てきませんでした。前回出されず今回出される理由もないのですが、選択肢にはあってもいいのかな、惑わす選択肢として出てくることはあるんじゃないかなという予想問題です。
選択肢1, 2, 3, 4で咽頭痛、1, 2, 4で発熱、2, 4で白苔を伴う咽頭炎が考えられるため、あとは若年成人という状況設定をどう見るかという問題です。一般に看護師国家試験における状況設定問題とはある程度の長文で状況が説明されますが、一言だって立派な状況設定です。相対論にはなりますが、若年成人と書かれている以上、看護学生的には小児、壮年、老年ではないという教科書的な前提で考えたいところ。そうなると4は小児だろうねという解き方を想定しています。
今し方、小倉唯「バレンタイン・キッス」を聴いていて思いついたわけではない、と、思う、よ。本当だってば。Kissing disease、伝染性単核球症って教科書に載ってるんですよね。臨床でも年に数件の入院患者を見ます。今回取り上げた理由はそれだけではなくて、COVID-19の大流行により長期的に若年成年における患者が増えるのではと考えたから。日本においてこの病気が一般に珍しいものとされている理由は、70%の人が幼児期に原因であるEBウイルスに感染し無症候のまま抗体を獲得するからです。対して欧米では20%前後、この差には生活習慣が関係していると言われます*2。唾液が主な感染経路となるEBウイルス、COVID-19対策で親子ですらキスや食器共有、「ふーふー」という食物を冷ます行為が避けられるとすれば、幼いうちのEBウイルス感染が減り、若年成年での感染と発症が増えるのでは。答え合わせは20年後に。同じ理由でう蝕が減ったりもするのだろうか。
予想問題2 試験のための技術か、実戦のための技術か
問題2
筋肉内注射の手技について最も正しいものはどれか。
- 針の刺入角度は皮膚面に対し45度である。
- 穿刺部位は前後の腋窩ひだを結ぶ線と肩峰中央と外側上顆を結ぶ線の交点である。
- 穿刺後、薬液注射前には必ず吸引して逆血を確認する。
- 穿刺部位の皮下組織とともに皮膚をつまみ上げて穿刺する。
正解2
2
解説2
しつこくCOVID-19関連でもあるのですが、SARS-CoV-2ワクチンのおかげで我が国の看護技術がようやく世界に追いつけた記念といったところです。そして、看護師国家試験の筋肉内注射といえばなぜか実戦でさほど出てこない殿部*3に打ちまくっていたことを反省しろというメッセージ。
それぞれの選択肢を正しく直すことで解説としましょう。
- 針の刺入角度は皮膚面に対し90度。垂直でなければ2で点として選ぶ穿刺部位を確実に穿刺できない。看護学校で使っている教科書では45~90度と書かれていたりするが、90度以外を選ぶ理由はない。*4 *5
- 正解。三角筋下滑液包と腋窩神経、後上腕回旋動脈を回避するため。筋肉内注射によるワクチン投与経験の浅かった我が国において、SARS-CoV-2ワクチンで筋肉内注射が求められたことを機に研究されて出てきた新たな手技。*6
- 吸引しての逆血確認は必須ではない。ワクチン接種において正しい穿刺部位には大きな血管はなく、吸引は痛みを増すだけ。*7
- 何もしなくてよし。皮下組織の下に打ち込むのに皮下組織を持ち上げる意味とは。やるならZ-track method、ただこれ、最大5mlもの大用量を投与することを意識した技術。*8
興味深いのは正解として据えた2について。欧米では今も肩峰より5cm下と変更されていないようなのです。 *9 *10 新たな研究成果が世界に広まっていくのか。そもそもワクチン接種は筋肉内注射が基本であり莫大な実績を有する欧米はその実績を基礎にし続けるのか。科学的には見所かも知れません。
余談ですが、肩峰から5cm程度下の目安として日本では3横指と言われますが、欧米では2横指です。指の太さが違うわけですな。
予想問題3 気軽に始めてやめられないもの
問題3
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の投与によって生じうる副次的な障害はどれか。
- 低血糖
- 便秘
- 骨折
- 嘔吐
正解3
3
解説3
睡眠薬を飲むと強制的に眠くなる。そんな中でトイレにでも行ったらどうなるよ? という単純な設問ですが、意外と現職の方々にも浸透していないなと思い続けており、「眠剤ちょうだい」と気軽に言われがちな夜勤明けの今、予想問題にしてみました。
看護学校での薬理学にも出てきますが、ベンゾジアゼピン系の薬剤は現代医療において幅広く用いられています。その主な効果は催眠、鎮静、筋弛緩。病院慣れしている入院患者などは気軽に「眠れないから眠剤ちょうだい」と言うわけですが、その眠剤は筋弛緩、つまりは身体を自由に動かなくする薬だと理解しているのでしょうか。自ら身体を動かなくすることがどれだけ重大なことか考えているのでしょうか。なんて説明してもベンゾジアゼピン系の有する依存性のせいか患者はまず引き下がりませんけど。「ちょうだい」と言われて対応するときに、その危険性は念頭に置きたいなと思うわけです。
ちょっと深く考えまして、仮に筋弛緩しない睡眠薬があれば転倒して骨折という惨事は防げるのでは。なんて賢い人たちは当然考えるわけで、今時は非ベンゾジアゼピン系の筋弛緩作用が少ない睡眠薬も多数存在し、やはり転倒の危険性は低いようです。*11
なお、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代表例はレンドルミン(ブロチゾラム)、サイレース(フルニトラゼパム)。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代表例はマイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)、ベルソムラ(スボレキサント)、デエビゴ(デエビゴ)。
定期処方で看護師が薬剤を選ぶことはありませんが、入院患者への必要時投与では看護師が選ぶことも少なくありません。国家試験に合格して臨床に出たら、この予想問題のことを思い出してもらえれば幸いです。本当は定期処方されていない睡眠薬なんか渡したくないんですけどね。それで後日面倒になったりもするから難しいところではあります。
あ、他の選択肢ね。薬剤性となると低血糖は糖尿病治療、血糖降下薬。便秘は麻薬。嘔吐は細胞傷害性の抗癌剤を意識しました。
おまけ
マークシート試験ではちょっと高級な鉛筆がおすすめ。軽くなめらかに太い線が描けます。結果として早く試験を終えられる、つまり、集中力が高いままに問題を解ける可能性が高まるのでこの道具選びは重要。
鉛筆3本と消しゴム1個、3勝1敗となった昨年の私も同様の布陣で挑みました。
製品出荷状態では鉛筆がしっかり削られていますが、前日にでも、当日試験会場ででも、サラサラと線を書いて丸めるべし。マークする部分は結構面積ありますから。
今回の予想問題記事はここまでです。受験生のみなさん、試験終了まで何卒ご安全に。
予想が当たったら、どなたか、これください。すっかり貧しくなった私がこいつを手にする日は来るのだろうか。
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*1:厚生労働省「保健師助産師看護師国家試験制度改善検討部会報告書について」
*3:成人は通常、上腕の三角筋。小児は殿部も多いようですが。
*4:Centers for Disease Control and Prevention. (2020). Vaccine Administration: Intramuscular (IM) Injection Adults 19 years of age and older
*5:厚生労働省. (2021). 新型コロナウイルスワクチンを安全に接種するための注意とポイント
*6:仲西 康顕, 面川 庄平, 河村 健二, 清水 隆昌, 倉田 慎平, 田中 康仁. (2021). ワクチンの筋肉注射手技の国内における問題点:末梢神経損傷およびSIRVAについて
*7:Centers for Disease Control and Prevention. (2011). General Recommendations on Immunization Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)
*8:Hopkins, U., & Arias, C. Y. (2013). Large-volume IM injections: A review of best practices
*9:Cumbria, Northumberland, Tyne and Wear NHS Foundation Trust. (2021). AMPH-PGN-10 ? Intramuscular Injection (IMI) V01 Appendix 2
*10:Centers for Disease Control and Prevention. (2020). Vaccine Administration: Intramuscular (IM) Injection Adults 19 years of age and older