歴史は繰り返すものだと教えてくれる「女性にAEDを使うとき」ネタ。8日にNHKニュースで「News Up 女性だとAEDが使われない? 救命処置の男女差」として取り上げられ、また話題になっていますね。しかしこの話題、形の上では救命と言いながらも実は「いかにAEDを使うか」に終始しており、「いかに救命するか」という視点で論ぜられることが少ないように思います。
AEDはAEDだけで使わない、胸骨圧迫とセットで使う
これ、重要です。AEDは突然の心停止における心肺蘇生方法の一部です。最低限にして最重要な心肺蘇生方法は2つの技術によって構成されます。
- 胸骨圧迫(心臓マッサージ)
- AED
心臓が止まったからさあ大変。外力で心臓を動かし続けようというのが胸骨圧迫、心臓を再始動しようとするのがAEDです。突然止まるような心臓ですからね、なかなか再始動しないんだな、と言うと実際の状況も想像しやすいかなと思います。
走っていて突然エンストした車を動かし続けようとしたとき、とにかく動かし続けるならば車を人力で押す*1しかありません。一方で、セルスターターを回してエンジンの再始動を試みない限り走っていた状態には戻りません。それぞれが胸骨圧迫とAEDです。
胸骨圧迫だけでは心臓の自律的な動きが戻らないため「蘇生」できません。しかし胸骨圧迫なしに心臓が動かない時間を作ってしまえば脳血流停止で脳が死んでしまい、AEDで心臓の自律的な動きを戻したところで「蘇生」できません。繰り返しますが、胸骨圧迫とAEDはセットで必要です。
心肺蘇生時に胸を露出したい理由
心肺蘇生となったらまず行われるのは、上述の通り胸骨圧迫です。胸骨圧迫の方法の要点は3点。
- 位置: 両乳首を結んだ線の真ん中(胸の真ん中)
- 強さ: 5センチ押して、完全に戻す
- 速さ: 100回/分
一般向けにはこれ。繰り返しますが、これが胸骨圧迫の要点です。
お気づきですね。胸を隠すと、胸が見えません。乳首も見えません。途端に要点の一つ、場所を外すことになります。要点を外した胸骨圧迫など効果が薄く、救命率は当然落ちます。
胸を隠していても注意深く見れば適切な位置を特定できるって? わかりました、あなたはできるのでしょうね。でも、あなただけができてもダメなんです。胸骨圧迫は1人で蘇生する続けられるほど軽い運動ではなく、何人もが代わる代わる圧迫していきます。全員が隠された正確な位置を当てられるのでしょうか。
実際に胸骨圧迫をした方ならわかるかと思いますが、1人で圧迫している中でも徐々に位置がずれます。そのときに戻るべき基準が見えなくては、適切な胸骨圧迫は維持できません。着衣の状態で隠れているならまだしも、実際には服等をサッとかけて隠すわけで胸の位置はわかりにくくなります。胸を隠し、救命率が下がりうる状況を作るべきではありません。
心肺蘇生のうち、胸骨圧迫で胸を露出したいのです。AEDを使う場合は併行して胸骨圧迫をするわけですから、AEDを使うときも胸を露出したいのです。
なお、件のNHKの記事に胸を隠して胸骨圧迫している写真もありますが、これ、位置が悪いように見えます。上にずれてないかな。本当に上にずれているかは不明ですが、そう見える時点でまずいんです。正しい位置を圧迫していると明確であり続けなければ、最高の救命率を引き出せないのです。
(NHKニュース「News Up 女性だとAEDが使われない? 救命処置の男女差」より)
女性の胸に触れたくて胸骨圧迫するのはありか
何を思っているかで胸骨圧迫の効果が変わることはありません。そして上述の通り、胸骨圧迫は何人もが代わる代わる行うもの。行動に移す人が1人でも多いことが大切です。救命の観点からは、胸骨圧迫するのならば何を思っていようとありでは。
ただ、夢を壊すようで何ですが、胸なんかより肋骨の心配すると思いますよ。実際に押したら。
最後に、心肺蘇生についての一通りを知りたい方はGoogle先生に聞いてください。だけってのも何なので、道民らしく北海道医師会 救急医療部による「救急蘇生法」を挙げておきましょう。

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