英語できないので英語怖くない
ある日の放課後、ちょいと教員室に行ったら聞かれたんですよ。
某教員「英語得意?」
わたし「いやー、ダメですね」
某教員「じゃあ、これ、どう?」
わたし「ダメって言ったんですけどねー。遊びに行ってみますか」
「これ」が「Symposium on Radiation Nursing: Satellite Meeting of ICRR2015 in Hirosaki University」でした。主催者は弘前大学大学院保健学研究科 高度実戦被ばく医療人材育成プロジェクト(長い)、共催者は日本放射線看護学会。
恥ずかしながら惑星であるICRRが何かも知らなかったのですが、これこそ新人のお仕事とばかりに参加することにしました。汎用的な看護も知らないのに、放射線看護とか無茶だけどねー。
なお、ICRRはInternational Congress of Radiation Researchの略称で、日本語では国際放射線研究会議となるようです。ウェブを軽く探すも概要がいまいちよくわかりません。この辺はそもそもウェブを作ってきたIT方面とは勝手が違いますな。4年に1度の国際会議らしく、日本での開催は36年ぶりだとか。その関連イベントとして、弘前大学で放射線看護のシンポジウムが行われました。
さて、Symposium on Radiation Nursingの内容をザックリと振り返りつつ、今日も今日とて好き勝手言ってみましょう。
Program
- Opening Remarks
- Special Lecture: Current radiation nursing and radiation nursing education in the United States of America, and recommendations to Japan
- Mie Suzuki-Fowler (RN-BSN, OCN from DeKalb Medical Center, GA, USA)
- English
- Luncheon
- Keynote Lecture: 日本の放射線看護教育と未来展望
- Panel Discussion: 日本からの提言、福島第一原子力発電所事故から看護職は何を学び、世界に向けて何をどう発信していくのか?
- Closing Remarks
Keynoteが頭じゃないってどーなってんだろと思っていましたが、Keynoteがこのイベントの方向性を示すようなものではないってことでした。それはそれでどーなんだろと思いますが。
言語は全て英語と案内されていましたが、草間氏が「みんな日本人ですよね」とSpecial Lectureの質問から日本語をぶち込むという...。英語の方がよかったと思うよ、しゃべれるが故に伝わらないことってあるんだよ。
ちなみに参加者は全部で50名ぐらいでしたかねぇ。学生っぽいのは1桁。
看護師の制度と働き方における日米の違い
1発目は「Special Lecture: Current radiation nursing and radiation nursing education in the United States of America, and recommendations to Japan」と題して、現役のRegistered nurseによる講演です。放射線よりも日米ナースの違いを主題にしており、意外とわかりました。
- What's NP? What's CNS?
- Nurse Practitioner and Clinical Nurse Specialist
- Both
- Advanced nurse
- Master's degree
- NP
- Specialized for anything
- Execute medical diagnosis and treatment
- Mixed RN with MD, Doctor of Medicine
- CNS
- Focusing on quality improvement
- RN has new roles, manager and educator
- Occupation Exposure
- Japan is the most advanced country.
- It's indivisually managed in US.
- Nursing in future
- LACE (licensure, accreditation, certification, and education) model
- Currently, we don't have enough instructors and mentors.
- Recommendation to Japan
- Keep learning, Let nurses keep learning.
- Hospital should spend on education for nurses.
NPとCNS、私には当然目新しい話なのですが、会場全体でなるほど感がありました。見た目からはベテランっぽい人が主力だっただけに意外。
途中、ある医師派遣会社(なんてあるんだね)のインタビュー記事がNPの存在を明確に示していました。NPがいれば医師は重度な治療に専念することができる。つまり、日常的な診察や治療をNPが行っているのがUSなんですね。日本もそうなったら、教育と試験が大変かな。
と思いつつ、「Recommendation to Japan」の部分を聞いて。IT方面と変わんないねぇ。お仕事看護師が多いってことなんでしょう。これ、どうしたら(対比的な意味で)趣味の看護師を増やせるんだろうねぇ。怪しげな英語で質問してみました。「Are you a nurse?」って聞かれて「No. Nursing student.」って答えてからは答えが日本語で返ってきたぜ。立てよ看護学生!
回答をザックリと。
- 日本の看護師もUSのナースも、学校を卒業した時点では同等
- 入職してからが違う。日本の看護師は止まってしまうが、USのナースは学び続ける
- USではadvancedへと進むことが普通なので、学ぶのは本人にも病院にも当然の流れ
- 日本とUSでは仕事が違う。これが日本の看護師の学びに影響しているのでは
- 日本の看護師はバイタル取って、相談に乗って、リネン変えて、寝衣変えて、配膳して、全部やる
- USではそれぞれ専門家が行う。それぞれのの仕事に専念している。ナースは配膳なんてしない
これはナースに限った話じゃありませんよねぇ。散々聞いてきた話が今またここで。学生に戻っても逃れられないもんだなぁ。
USの働き方の中でのCNSってのはおもしろそうです。「not my division」を一掃するための仕事でもあるのでしょう。
まずは怖がらないこと、そして説明できること
Keynoteは講演者である草間氏の要望で日本語になりました。絶対英語の方がいいと思ったのは、私だけですかね。とっちらかるぞーって思ったらやっぱりそんな感じだった。見るからにそんな感じのおばちゃん。(とか言うと怒られそうだけどね。日本看護連盟の会長でもある。)
- Call it "Radiological Nursing"
- Where are radiations used?
- Medical
- Especially, sterilization
- Imaging
- Agricultural
- Hardly in Japan due to "fear about radiations"
- Medical
- Japanese medical exposure is the highest in the world.
- CT scanners!
- in Japan: 12,943
- in US: 12,740
- Worldwide: 44,000
- CT scanners!
- Exposed situation
- Emergency
- Residual
- Planned (Normal)
- Exposure classification
- Occupational
- Medical
- Public
- Education, trials in Tokyo Healthcare Univ.
- Practice makes students properly nurses in radiological nursing.
- What must nurses do?
- Explain about exposure
- Public health nurses should learn advanced radiological nursing.
- Don't be afraid of radiation like patients.
日本は医療被曝の値が世界的に見てぶっちぎりで高いそうです。日本の医療が非常に整っていることに由来しているというのは皮肉なのかな。被爆を悪いものと見ればだけど。CTスキャナはありふれており、そいつを使うための金も健康保険から容易に得られる。USはスキャナ数こそトントンですが、そもそも国土も人口も違う上、健康保険制度が複雑で、要は金銭面が面倒でなかなかCTスキャナの出番とはならないそうですよ。
だからこそ人々は放射線について正しい知識を身につけていてもよさそうなのに、看護師すらさっぱり。と言うのが草間氏の講演における柱かな。「まず怖がるな。適切な説明をできる看護師になれ」と声高に主張なさっており、現状が悲惨であることが透けていました。福島第一原発の事故がなければこのことに気付けなかった感もあり、草間氏を初めとした放射線看護方面の重鎮が仕事をしていなかったとも言えるのですが、過ぎたことを言っても仕方ありません。
自らが副学長を務める東京医療保健大学では放射線に関する実習を多数含めており、効果を上げていると紹介していました。実習がと言うよりは、己が生きる世界との繋がりが見える形での教育は効果が高い。学生の立場でもそれは感じます。ただ、これには手間と時間がかかるんですよね。手間の方は義務教育の現場がゆとりで失敗しており、看護教育界隈の腕はどんなもんかなってところ。時間の面はカツカツな3年制の専門学校から、4年制の看護学部が主流になっていくことでうまいこといくのかも知れません。専門学校にいる身としては、書いてて寂しいのですが。
質問の中に「国家試験に放射線看護をもっと盛り込んでは」というのがありました。これが出てくる時点で1つ前の講演を忘れているわけですが、ね。現状では問題数も少なく、その問題の内容もどうでもいいものだそうです。
制度に求めるか、個人に求めるか
パネルディスカッションの話は省略。あんまおもしろくなかったんよ。ディスカッションは内輪の井戸端会議みたいだったしなぁ。
私のまとめ。
- お仕事看護師を趣味の看護師にする必要があると、放射線看護の学者連中は感じている
- 一方で、制度面でお手本としているUSを真似しきれない現実がある
どーかねぇ。人を動かすものは何かって話になるんだけど、制度重視じゃ厳しいと思うよ。
ではどうやって趣味の個人を育成するかってことになるんだけど。そこが教育の魅せ場。USのような業務の専門化を制度で整えてやれば(ここは比較的制度でやりやすい)、教育課程の中で強い「俺はこれやる」感が出てきて、趣味率も上がるんじゃないでしょうか。ま、向こう10年でどうにかできる話じゃなさそうですな。
システムを構築される技術者のみなさまに悲報です
おまけ。
草間氏が講演の中で、どうも、今後の原発事故の可能性を濁すんですよね。少なくとも二回聞きました。「事故は起こっちゃいけないんですけど」って専門家連中がいる中で妙な言いよう。「事故の可能性をゼロにはできませんから」でいいはずなのに。
分野や規模を問わず何らか仕組みを作ってる技術者は、福島第一原発の事故で思いましたよね。人が作った仕組みは事故を起こすもの。起こさないシステムなんて奇跡だ。だから、事故が起こる前提で運用を考えないとダメ。
とゆわけで、講演が終わった後に草間氏に聞いてみました。口を滑らしたのか、おもしろいことをおっしゃってました。「だってあんた、次に事故を起こしたら、もう原子力できないよ」って、考え方を逆にして欲しいんだけどなぁ。ま、日本看護連盟の会長さんですからね。「事故の可能性」伝言ゲームを失敗させる根源という見方もあります。看護師が放射線を怖がっているらしい現状に至った理由を踏まえ、一歩進んだようだと言っておきましょうか。