夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

第110回看護師国家試験 予想問題3問(看護師(17)編)

久しぶりがこの記事になってしまいました。第110回看護師国家試験 独自予想問題3問のお時間です。ここのところblogの更新を休んでいたのはCOVID-19の影響、ではなく、ただ冬眠していただけです。北の果てでは春も遠いのですが、そろそろ起きなくてはなりませんね。

昨年までの分はこちら。

今回110回も第107回から引き継がれている「保健師助産師看護師国家試験出題基準 平成30年版」が適用されます。改定は来年ですかね。

予想問題1 COVID-19の影響は受けるのか

問題1

個人防護具を外す順番を適切に列挙したものはどれか。

  1. ガウン、マスク、ゴーグル、手袋
  2. 手袋、ゴーグル、ガウン、マスク
  3. マスク、ガウン、手袋、ゴーグル
  4. ゴーグル、マスク、手袋、ガウン

正解1

2

解説1

実はこの方法、少なくとも私が受験した第107回の頃にも、教科書には載っていました。しかし真剣に覚えた学生がどの程度いたことか。そもそも座学でも実習でも個人防護具(PPE)を真剣に捉えていた向きは少ないように感じます。そこを狙ってきたのが昨年のCDAD対策のPPEですよね。そして厚労省の思惑通り、解答速報を作る連中ですら沈められた。COVID-19対策でPPEの重要性が最高潮に達している今、この問題を出さない手はないでしょう。

あえて「外す順番」を予想問題にしたのは、外す順番の方が重要だからです。PPEの第一義は着装している人の保護。そして1回使い捨てのPPEでは、極端な話、着ける順番が狂おうとちゃんと着けられていればPPEは問題なく機能します。新品のPPEのどこを触ろうと保護が無効になることはありません。念のため、適切な着ける順番は選択肢「1」です。一方で外す順番は、汚染が着ていた人に及ばないようにしなくてはならず、そのための順番になっています。下手なところをを触れば保護は無効になります。順番通りにすることで、下手なところを触らないで済むわけですね。

外す順番を予想問題にした理由の一つはそこで、実は、考えれば解けるんです。最も強く汚染されており、PPEを外していくにあたって最初に可能な限りの清浄性を確保したいのはどこか。手ですよね。丸暗記でしか解けない問題なんておもしろくありません。

さて、ここまでで勘のよい方は気付いているかと思いますが、外す順番も必ずしも一通りではありません。ゴーグルとガウンは前後しますし、ところによってはどちらでもいいとなっています。

今回調べてみて世界的にはガウン、ゴーグルが多そうな感じは受けました。何にせよ、大切なのは手袋を最初に外すこと。

余談ですが、国立循環器病研究センターは2015年の新人看護師教育の記事ですね。この時点でこれを徹底できているのはさすがだ。

私は学生時代より「がまごて、てごがま」と呪文のように覚えていたのが、このたびのCOVID-19対策でも役立っています。どこだかの実習で「あそこに貼ってあるから覚えよう!」って言われた気がするんですよね。そこもさすがだよね。どこだったろう。

なお、今年の看護師国家試験問題が、あからさまにCOVID-19の影響を受けることはないだろうと私は見ています。まだ未知の部分も多く、実は間違ってましたってのがあり得ますからね。ただ、広く捉えて、感染症対策や公衆衛生の問題を重視するだろうなとは思います。

予想問題2 なぜか嫌われる薬の話

問題2

予防接種法に基づく定期接種ワクチンで防ぐことができない病気はどれか。

  1. B型肝炎
  2. 流行性耳下腺炎
  3. ヒトパピローマウイルス<HPV>感染症
  4. 結核

正解2

2

解説2

資格試験の華、法規。今回は公衆衛生関連にしてみました。法規ですから覚えるしかありません。ただ、この選択肢であれば、選択肢「3」が正解から外れる、あえて入れられた選択肢であることには気付いて欲しい。1か2かで勝負して、負けたら仕方ないでしょう。B型肝炎ウイルスワクチンは2016年から始まった定期接種です。

言うまでもなく、HPVワクチンはSARS-CoV-2ワクチンが出てくるまで近年最も熱いワクチンでした。日本国内限定で。2013年に定期接種となるも、積極的な接種勧奨が差し控えられる状態が続いています。今から7, 8年前。今年、真っ直ぐに看護師国家試験の受験生となった人たちはちょうどその頃を中学生として過ごしています。接種を受けていない人も少なくないのでは。そこであえて問われるのではなかろうかと。

ワクチンに対する理解を広めたいという厚生労働省の思惑がある、だろうと見込んでこの予想問題を作りました。SARS-CoV-2ワクチンで再びワクチンについての議論が白熱している今だからこそ、看護師には科学的根拠に基づく医療を信ずるよう育って欲しいはずです。書いちゃいましたが、科学もある種の宗教ですよ。絶対的な正しさではない。政教分離の原則が唱えられる現代の先進国において、分離し切れていない唯一の宗教。そう、分離していないんです、だから国の免許で活動する以上は信じないとならないのです。建前としてだけでもね。

ちなみに私は、Pfizer-BioNTech BNT162b2がやってくる日を楽しみにしています。最先端のコンピューティングが生み出した高級品がただでもらえるんだよ。最高だね。

予想問題3 地道に続けることが大切

問題3

薬剤耐性〈AMR〉対策として不適切な看護師の行動はどれか。

  1. 内服薬は症状が軽快したら服薬中止するよう患者に指導する。
  2. 手洗いによる感染予防に努めるよう患者に指導する。
  3. ワクチンによる感染予防に努める。
  4. 患者に触れたあとで手指衛生を行う。

正解3

1

解説3

第108回予想問題の焼き直しです。薬剤耐性対策は出ると思うんですけどねぇ。出ていないんですよねぇ。

選択肢の作成には国立国際医療研究センター病院AMRの院内感染対策「私たちができること」 」を参考にしました。

薬剤耐性対策で理解しておきたい点は2つ。

  • 薬剤の適切な使用
  • 感染予防(そもそも感染しない、させない)

この観点から選択していけば正解を導けます。予想問題で不適切な選択肢を選ぶ問題としたのは難度調整のためで、それ以外の意図はありません。そして選択肢「4」は今回の焼き直しで改めたところです。患者に触れたあと? それは関係ないでしょ? ではなく、感染しなければ薬剤も使う必要がない、感染予防策が何より大切なんだというところを強調しています。My 5 Moments for Hand Hygiene、覚えていますか。

This approach recommends health-care workers to clean their hands

  • before touching a patient,
  • before clean/aseptic procedures,
  • after body fluid exposure/risk,
  • after touching a patient, and
  • after touching patient surroundings.

SAVE LIVES: Clean Your Hands 2020 より)

患者に触れる前後、清潔操作の前、体液曝露の後、患者の周辺に触れた後。

「薬剤耐性〈AMR〉」は平成30年版出題基準で追加になりました。薬剤耐性対策を怠れば医療の治療能力は劣化していきますから、対策はとても重要。MRSA多剤耐性緑膿菌の問題は過去に出ています*1が、問われるのは対策の根幹だろうと見ています。そもそも看護師ができる薬剤耐性対策は概ね感染予防になるという事情もありますしね。VREに対してリネゾリド、という問題ではない、よね。

おまけ

マークシート試験ではちょっと高級な鉛筆がおすすめ。軽くなめらかに太い線が描けます。結果として早く試験を終えられる、つまり、集中力が高いままに問題を解ける可能性が高まるのでこの道具選びは重要。

トンボ鉛筆 鉛筆 MONO モノマークシート用セット HB MA-PLMKN

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  • 発売日: 2015/09/16
  • メディア: オフィス用品

鉛筆3本と消しゴム1個、私も近年の試験では同様の布陣です。

製品出荷状態では鉛筆がしっかり削られていますが、前日にでも、当日試験会場ででも、サラサラと線を書いて丸めるべし。マークする部分は結構面積ありますから。

今回の予想問題記事はここまでです。受験生のみなさん、試験終了まで何卒ご安全に。

予想が当たったら、どなたか、これください。すっかり貧しい身になりまして、レンズなど一本も買っておりませんよ。

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医療を守るため出かけよう、いざ献血へ

今一度取り上げましょう。血液が、献血者が不足しております。

Untitled

緊急事態宣言下のゴールデンウィークにも書きましたが、COVID-19大流行の影響で献血バスを走らせることができず、献血で得られる血液が不足している状況です。面積は広いが献血ルームは少ないここ北海道では特に献血バスの稼働が献血を支えていますが、COVID-19の影響でうまく巡回できていません。

12月の北海道では、本日28日時点で予定に対し354人の献血者不足となっているとのこと。

12月 必要人数に対する協力人数の差異(400mL献血)累計354人のマイナス 2020-12-28

新型コロナウイルス感染者数の増加に伴う献血の影響について【第5報】|新着ニュース・プレスリリース・イベント|北海道赤十字血液センター|日本赤十字社 より)

COVID-19の流行とは関係なく、献血を必要とする病気や治療は存在しています。輸血用血液製剤は常に、現在も必要とされています。

年末年始はもともと献血が減る傾向にある時期*1です。さらに今年は、お上が「静かな年末年始をお過ごしいただきたい」と要請しており*2献血にしてみればさらに厳しい状況が予想されます。

日本赤十字社も訴えるとおり、献血は不要不急の外出ではありません。むしろ現時点において、急ぎ必要な外出です。

もし本当に医療のことを心配しているのならば、すぐに献血ルームに電話して、予約の上で献血に行きましょう。さあ、北海道赤十字血液センターの案内「献血いただく方へ」を今すぐ読むのです。

またまた行ってきたよ、献血の旅

私の住む稚内から最も近い献血ルーム、北彩都あさひかわ献血ルームまでは往復545km。今回は鉄道で、2泊3日の旅にして行ってきました。

Good Morning from My Window. December 27, 2020

ひどい雪でしたが、久しぶりに出かけられて楽しかったです。冒頭の写真の通り、帰りは血液製剤と一緒でした。

誰かのためが、自分のためにも。献血、是非行きましょう。

400mL献血したら信州そばの乾麺をくれた。いやいや、北海道、それも旭川なんだから、幌加内とか江丹別とかあるでしょうよ。とは思った。何にせよ、これで年越しも万全だ。

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日本看護協会、看護師は安値で使い捨てとひっそり表明

使い捨ては構わないんだけど、それをひっそりと表明するのはいただけませんな。

日本看護協会、ジャニーズから5億円を得る

ジャニーズ事務所から日本看護協会に、5億円の寄付がありました。この寄付で日本看護協会は「Johnny's Smile Up! Project基金」を設立し、2つの事業を行うそうです。 *1 *2

  1. 認定看護師の育成に関する事業
  2. 看護師等学校養成所への支援事業

ここまで10.6億円を医療支援に投じているジャニーズ凄いなと単純に思いますね。まあそこに金脈があることを把握しているんでしょうけど、それはビジネスですから当然ですし、何にせよ10.6億円の支援は事実です。凄い。

さて、問題は日本看護協会です。今回の5億円の使途。これだけ見れば、然もありなんとも言えるのですが。

日本看護協会、現職看護師が金銭的に疲弊していると言いながら一銭も渡さない

本日12月22日、日本看護協会は「新型コロナウイルス感染症に関する記者会見」を開きました*3。マスメディア各社が報じているとおり*4 *5 *6 *7、COVID-19の影響で「看護師の離職が増加している」「看護師への偏見差別が増加している」という2本柱の会見でした。そして同会見の中で、日本看護協会会長の福井トシ子は冒頭言い放ちます。

看護職員は高い使命感を持って働いていますけど、様々な事情から職場を離れる看護職員を、ま、責めるわけにはいかないかなと思っています。

え、責めるわけにはいかないって姿勢なの? 辞めるも辞めないも自由じゃないの? 使命感で辞めないのが基本なの?

この時点でだいぶきな臭いなとは思いつつ、日本看護協会の記者会見なんて誰も見ないから燃え上がらず残念だなとも思いつつ私は見続けると。さらに彼女は言い放ちます。

医療崩壊を生じさせないためには、現在新型コロナウイルス感染症対応の最前線で患者ケアに当たっている看護職員が、辞めずに働き続けられることが必要であります。えー、現在医療機関の経営状況は大変厳しくなっています。看護職員を初めとする医療従事者が最前線で懸命に努力し大変な苦労をしているにもかかわらず、減給やボーナスカットということが起きています。

ほほー。つまり減給やボーナスカットを埋めれば、看護職員は辞めずに、医療崩壊の回避にも繋がるとわかっているのですね。

ここで、前述へと戻ります。5億円を手に入れた日本看護協会が行うことは。

  1. 看護師166万人中、2万人で成立している「認定看護師」資格の推進 *8 *9
  2. 新たな看護師を育てるための支援

つまり、看護師のうち1.2%(推進で幾ばくか増えたとして数%)だけを手厚く扱い、その他は使い捨て。「金など出さぬ、薄給で辞めるなら辞めろ。新しい人員で入れ替える。」と宣言したわけですね。婉曲的に。

なお、使い捨ての姿勢はかなり強いものです。同会見ではこのようなことも述べられました。

資格を持ちながら看護の職に就いていないいわゆる潜在看護職員は全国で70万人とも言われています。えー、看護の有資格者全員の所在や職歴、研修履歴等を把握できる仕組みが整備されていれば、復職のお願いもずっと広い範囲でできたはずです。国には是非、このような仕組みの制度かを早急にお願いしたいと思っています。

使い捨てるまでは逃がさない所存でございます。

「高い使命感」とかわざわざ言うところも含めて、これはいわゆるやりがい搾取じゃないのか。素晴らしいな。

尤も、今回の5億円だけについて言えば、166万人で分ければ300円強。ばらまくわけにはいかないのもわかります。とは言え無策はやりがい搾取。それこそ国に早急にお願いするとか、ジャニーズはこんなにくれたよと他からも金を引き出すとかした上で、減給になった看護師に配るとか、やりようはあるんじゃないですかねぇ。脆弱とわかっている方法で穴を埋め続けることが、高い使命感で初めにやることなのでしょうか。ああ、日本看護協会に改善を目指す使命感はないか。

ちなみに僕が支払っている日本看護協会の年会費、16,500円です。おいおい、使い捨てだ辞めろ辞めろって言われるためにこんなに払っているのかよ。

確信犯なら使い捨てるのもよし

当blogをご覧のみなさまであれば、私が「看護師をもっと大切に」などと言わないことはよくご存じでしょう。全く思っておりません。辞めたきゃ辞めろ? 結構なことです。使い捨て? 結構結構。この世の職業は看護師だけではありません。こちらも辞めたければ辞めますよ。そもそも看護師は給料の安い職業ですから、給料を上げろと叫んで居座ったりする気など全くございません。

しかし私はこれでも意外とイノセントなのですよ。不正には不正と言いたい。「お前らは使い捨てだ」という主張を直截ではなく婉曲にするのは、それが正しいことでないとわかっているからでしょう。そりゃ、ダメですよ。言葉通りに不正です。それを看護師の代表面している日本看護協会がやっちゃダメ。

ん? 組織率が5割を切っている*10日本看護協会に、なぜ私が加入しているかって? 公的病院の看護師は事実上強制されるからですよ。強制とは言え、私も不正に荷担しているのか。厳しいな。

日本看護協会 会員手帳 2021

日本看護協会 会員手帳 2021

  • 発売日: 2020/11/12
  • メディア: 文庫

こんなの出してるんだね。と言うのでお察しの通り、会員だからってもらえたりはしません。もらったとしても、私はリラックマ手帳を使うけどね。

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自粛が脅かす医療、経済なくして医療なし

COVID-19が勢いを増し続ける中、自称人道派のみなさまは医療か経済かと問い、自明とばかりに医療優先、経済活動の自粛を声高に訴えてらっしゃいます。しかしそれは本当に医療を守る、人の命を救う行為なのでしょうか。

あくまで例としてですが、中国の未開の奥地と、日本の東京と、どちらの方が医療が充実していると思いますか。あなたが病気になりどちらかで治療を受けられるとしたら、どちらを選びますか。日本の東京と答える人が大半でしょう。もう少し話を緩くして、稚内と東京でも東京ですよね。では、なぜ東京なのか。それは東京に強い経済があるからです。卵か鶏かではありますが、人と金があるところにこそ充実した医療が存在しうるのです。

冒頭の話に戻りますと、経済活動の自粛は医療を弱化させることに他なりません。簡単な話なのです。と言うと、自称人道派のみなさまは「今は医療」みたいなことをおっしゃいますが。すでに、自粛が医療の首を絞めている一例を今回は紹介します。

宗谷線が運ぶ医療資源

旭川から稚内へと向かう鉄道の最終便、特急サロベツ3号に乗っていると時々こんな光景を見ることがあります。

特急サロベツ3号 血液製剤輸送中 1

わかりにくいですかね。では、近くに寄りまして。

特急サロベツ3号 血液製剤輸送中 2

血小板、つまりは血小板製剤、輸血用血液製剤です。

稚内で使用される血液製剤旭川から供給を受けており、その輸送方法の一つはJR北海道の鉄道です。旭川2006発、稚内23:47着のサロベツ3号に血液製剤が乗っていることは、私が知る限りそう珍しくもありません。

このサロベツ3号、肝心の人はあまり乗っていないんですよね。COVID-19なんて現れる前からガラガラ。そこにCOVID-19由来の移動自粛が襲いました。JR北海道は「新型コロナウイルス感染症の影響によりご利用が減少していることから」と断り*1、2020年6月14日から同30日までサロベツ3号を運休しました。その間、普段ならサロベツ3号で届けられる血液は翌日に届けることとなったのです。緊急の場合には別の方法でサロベツ3号と同等の輸送も提供可能だったようですが、輸血製剤の供給体制が弱化したことは事実。自粛は実際に、弱い医療をさらに弱くしているのです。

なお、特急サロベツ3号は驚いたことに7月1日より再開しましたが、来春のダイヤ改正での減便が決まり*2、4,5,10,11月の火水木曜は運休となります。COVID-19がなくとも宗谷線は赤字路線であり、余程のことがなければ、それこそ経済が急上昇でもしない限りはサロベツ3号が完全に戻ることはないでしょう。つまり、輸血製剤の輸送手段は減ったまま、自粛が弱らせた医療が回復することはありません。

都会にいてはわからぬ田舎の苦境

昨今一般にも使われているらしいカタカナ「レジリエント」ってヤツですよ。そもそもが盤石な経済を有する都会であれば「今は医療」が通じます。多少の自粛を経ても、戻る力があるんですよね。それこそがまさに潤沢な人と金、強い経済のなせる技。一方で脆弱な経済でなんとか成り立っている田舎に「今は」は通じない。

自分はぬくぬくと潤沢な人と金に守られながら、自粛自粛と弱いものに刃を突きつける。言葉にするとずいぶん非道な行いですが、ぬくぬく側にいたら気付きませんよね。私も田舎に来なかったら同じことをしていたかも知れません。でも、私は今、田舎にいます。故に、刃を突きつけられている現状をお伝えしました。

稚内殺人旅情 (光文社文庫)

稚内殺人旅情 (光文社文庫)

かにの密漁密輸で潤ってた頃の稚内が舞台。稚内と小樽がわかるとおもしろい話だった。地理的な描写は今と変わらない。

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wakhok.ac.jpを超えられるか、育英館大としてeスポーツに挑戦

稚内北星学園大学を育英館に譲渡することを発表して約1年。今年はCOVID-19の影響で何もかもが停滞してしまいましたが、稚内北星学園大学の今後が発表されました。全国紙では育英館大学への名称変更と京都サテライトキャンパスの設置という昨年の発表の焼き直しみたいな内容のみが報じられました*1が、ここ稚内ではもう少し踏み込んだ報道がなされています。

日曜で静かな稚内北星学園大学

かつての輝きを取り戻し、持続させる気なのか

12月11日、育英館および稚内北星学園大学の理事長である松尾英孝氏がオンライン会見を行ったとのこと。それを報じた稚内プレスの記事におもしろい内容があります。

 サテライト校開設や新たな大学での学生募集に繋げるため情報メディア学部に今後、ドローン技術や世界各国で大会が開かれ成長分野である〝eスポーツ〟を学ぶ科目を導入する考えを明らかにし「eスポーツは日本の大学で学ぶところは少なく、稚内の大学で導入し若者が入ってくる魅力ある大学にして学生確保に繋げ経営の安定化と、世界で活躍する人材を輩出したい」と今後の展望についても語った。

稚内プレス「再来年春、稚内北星大を育英館大に 市長が議会で特別発言 抜海駅は存続する方向に」より)

これには驚いた。何に驚いたって、eスポーツを柱にするってところですよ。当blogでも何度か触れている通り、稚内北星学園大学はかつて、1990年代から2000年代にかけてはその筋で有名な大学でした。情報通信関連に非常に力を入れていて、IT方面の人間ならば大学名は知らずとも「wakhok.ac.jp」には見覚えがあろうと言えるほどです。詳細はWikipediaをご覧いただくとして。その当時の稚内北星学園大学は輝いていたわけですが、バブルの崩壊、全国的な少子化にとどまらず、稚内の人口減少、そもそも稚内の教育に対する熱の低さから、学生確保に難渋し、ついには開設時に費用を全面負担した市にも捨てられて現在に至ります。

情報通信関連は莫大な設備投資が要されます。それも、継続的に。それ故に稚内北星学園大学は長らえることができなかったとも言える中で、eスポーツを持ってきましたよ。教育関連の経営に慣れている育英館がこの手を打つことに興奮せざるを得ません。強気で投資を続ける覚悟があるのでしょう。

 来年4月から開校する京都サテライト校と稚内本校を合わせた1学年の定員は50人。大学として今後、新たな科目を導入することで来年の新入生について松尾理事長は「30~40人を確保したい。新体制での2年目は更に学生を増やしていきたい」と述べた。

(同)

どうやら稚内からの学生はさほど期待していないといった風なのも、さすがにわかっているのだなと感じます。

遠く離れた私ですら知っていた稚内北星学園大学ですが*2稚内の人たちからその輝きが語られることはありません。上述の通り、そもそも稚内の教育に対する熱はかなり低い。立地はかなり悪いわけですが、学生の4年間だけと考えれば、外から取ってこられると考えているのでしょう。

なお、現在の学生数は1年 16人、2年 45人、3年 29人 21人、計111人*3。30~40人はかなり強気な宣言です。現111人のうち、留学生がネパール34名、中国3名で、全体の3割強を占めます。中国色の強い育英館が留学生をどの程度入れてくるかも見物ですね。ただ、eスポーツとなると、中国の方が進んでるんじゃないかなぁ。

大学を大切にする弘前、大学を捨てる稚内

田舎に住もうと選んだ弘前と、稚内とで、何が違うかと言われれば、一つは大学を大切にしているか否かじゃないかと思っています。弘前も教育に対する熱が低く、中学生など部活ばかりに力を入れているところでした。が、何となく地元の大学、弘前大学弘前医療福祉大学弘前学院大学東北女子大学(現柴田学園大学)への進学という選択肢*4が意識にあるようでした。その程度で弘前大学に行けると思うなよと思ったりもするわけですが、それはまた別の話。*5

一方で、稚内では稚内北星学園大学への進学などまず挙がってこない選択肢です。そもそも大学進学しない人も多いですし*6、進学となれば旭川、札幌へ出て行くのが当然です。

稚内北星学園大学改め育英館大学が輝きを取り戻したときに、稚内は変わるのか。楽しみに見守っていきたいと思います。昨年申した通り、稚内の教育に中国が食い込んでくることでどうなるのかってのも気になるところですね。

前のめりにいく計画は順延中

見守るだけでは飽き足らず飛び込みたいと思っていたわけですが、COVID-19大流行の影響で今年の市民聴講生募集はありませんでした。来年以降に期待しましょう。

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*1:日本経済新聞北海道の稚内北星学園大、「育英館大学」に名称変更へ

*2:2005年から2012年まで秋葉原クロスフィールドに東京サテライト校があったのは知らなかった。

*3:稚内北星学園大学情報公開

*4:並んで弘前病院附属看護学校という選択肢もあるのが、これまた地域性だなとは思いました。

*5:大学短大進学率が46.2%にとどまるのはこの辺なんだろうね。(青い森オープンデータカタログ「中卒後・高卒後等卒業者の進路状況 令和元年」)

*6:稚内の大学進学率は2019年度42.0%(「令和元年度 稚内市統計書」)。全国では大学短大で58.1%、大学でも53.7%(「学校基本調査-令和元年度結果の概要-」)。

感染予防のため、COVID-19に関わる看護師を避けるべきか

COVID-19の大流行が続く中で、途切れることがないのがCOVID-19に関わる医療従事者に対する差別事件。医療従事者の中で最大派閥を誇る看護師にそのたまは直撃しておりまして、Google先生に聞くとそんな事件を報じる記事が山ほど出てきます。ここまでのまとめはこれでしょうか。

偏見・差別等の実態

医療機関介護施設やその従事者、家族等への差別的な言動

・感染者が発生した医療機関及び医療従事者等に対する誹謗中傷、暴言、苦情、職員への嫌がらせ

・医療従事者等の子どもに対するいじめや一部の保育所等での登園拒否等

内閣官房 新型インフルエンザ等対策有識者会議 - 【概要】偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループこれまでの議論のとりまとめ より)

COVID-19に関する偏見や差別の筆頭に挙げられております。

ここでちょっと考えたい。誹謗中傷やら暴言は法的にすら話になりませんが、COVID-19に関わった医療従事者を避けんとする行為の是非を。理路整然と、願わくば科学的に考えたい。同行為がCOVID-19の罹患率を下げうる行為なのか、そうでもないのか。

医療方面ってのはどうもここが苦手らしく、科学的、evidence basedであることが重要と説きながら、己のこととなると愛のままにわがままに僕は僕だけを傷つけない主張をなさいます。そのせいか本件も医療方面からの訴えが聞こえないので、場末の当blogで取り上げましょう。

COVID-19に関わった医療従事者の罹患率を調べた大規模調査が発表された

先月下旬、まさにこの話題にぴったりの論文がThe BMJに発表されました。The BMJは国際的にも権威のある医学誌*1。ここに掲載された注目の論文がShah Anoop S V, Wood Rachael, Gribben Ciara, Caldwell David, Bishop Jennifer, Weir Amanda et al.「Risk of hospital admission with coronavirus disease 2019 in healthcare workers and their households: nationwide linkage cohort study」です。私のようなひよっこにも優しいabstractが付いており、結論はここでわかります。そいつをさらにまとめるとこんな感じ。

  • 英国スコットランドにおいて、158,445人の医療従事者およびその家族229,905人と、それ以外の人々とで、COVID-19により入院に至るリスクの差を調べた
    • グループ1: COVID-19患者と対面しない医療従事者とその家族
    • グループ2: COVID-19患者と対面する医療従事者とその家族
    • グループ3: 医療従事者でも、医療従事者の家族でもない人
  • グループ1とグループ3のリスクは似たようなもの*2
  • グループ2とグループ3のリスクには差があり、グループ2の方がザックリ言って1.5~3倍の確率でCOVID-19により入院している*3
  • とは言えグループ2のうちCOVID-19で入院に至ったのは0.5%以下の人

おもしろい数字ですね。

結論としては、避けるべき

感染症対策の基本の一つは、感染経路を有した形で感染者に近づかないことです。COVID-19/SARS-CoV-19の場合で言えば、感染者の飛沫を浴びるような距離に近づかない、感染者と接触するような距離に近づかないことです。いわゆる濃厚接触、close contactsを避けるってことですね。

よって理路整然と話をすれば、COVID-19に関わる看護師、医療従事者を避けるという行為は、感染対策として有効だと考えられます。

ただ、繰り返しますが、接触を避けることと、誹謗中傷することは全く別です。ひっくるめて、そっと遠ざけるのが正解でしょうか。

前回の話ではありませんが、その辺が差別と区別の違いなのかも知れません。

一例として秋田県は「NO!コロナ差別 ~感染した方々にはやさしさを ウイルスと闘うすべての方々に感謝を~」なんてキャンペーンをやっています。一例と申した通り、どこも似たようなことをやってますし、主張していますね。しかし感染症を克服するのに必要なのは優しさや感謝ではありません。理路整然と、願わくば科学的に考えた対応でしょう。優しさや感謝といった感情に訴えることは、正義を抱えた確信犯を呼び出すことに他なりません。それはとても危険なことだと、私たちは歴史として学んできましたよね。

こーゆーことを言うと4/3の純情な感情によって「あなたが避けられたらどう感じますか」みたいなキラキラした質問を送りつけてくださる方もいらっしゃいますが。繰り返しますが、必要なのは理路整然と、願わくば科学的に考えた対応。避けられることにどうと思うことはありません。感染拡大の可能性が低減させられるのでよかったな、ぐらいですよ。

妊婦マークみたいに「COVID-19診療に関わっています」マークとかあったらいいんじゃない。

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*1:Wikipediaブリティッシュ・メディカル・ジャーナル

*2:医療従事者につき hazard ratio 0.81, 95% confidence interval 0.52 to 1.26、家族につき 0.86, 0.49 to 1.51

*3:医療従事者につき hazard ratio 3.30, 95% confidence interval 2.13 to 5.13、家族につき 1.79, 1.10 to 2.91

風俗で感染しても、職場で感染しても、同じCOVID-19

無風と言える状況であった宗谷管内にも風が吹き出しまして、北海道の発表によれば現在、市内在住者が5人程度、利尻島在住者が20人程度、COVID-19に罹患しているようです。利尻島はかなり深刻で、約4,300人の島民のうち20人、0.47%が感染者。東京都の数字に置き換えると約1,400万人のうち6.5万人の人が現在治療中という状況になります。東京都の実際の数は僅か3,000人ですから、利尻島の状況が如何に凄まじいか、ご理解いただけることでしょう。

おっぱいしゃぶって何が悪い

医師が診療中におっぱいしゃぶったらまずいのですが。セクキャバなりヘルスなり、ソープなりでサービスの中でおっぱいしゃぶるのは何ら問題ありませんよね。一方で、おっぱいしゃぶることが直接の原因になるかはともかく、風俗での濃厚な接触SARS-CoV-2に感染する確率を上げるのは言うまでもありません。

風俗街も休業あり

風俗が営業継続できているのは、客がそれなりにいるからです。推測としては、風俗で感染しCOVID-19に罹患している人もいると考えるのが自然でしょう。「人も」と書いた通り、風俗以外の場所で感染する人がいるのも周知の事実です。何にせよ、患ってしまったら治療するしかありませんね。

それだけの話です。

ところが、どうも、風俗を始めとしたいわゆる夜の街で感染したことに対して、蔑むような声が聞こえるのです。特に宗谷など未だにムラですから、あの人は風俗絡みで感染したらしいと蔑み、病床を占有するのは迷惑だと言う声を聞くことがあります。

感染者はは、その感染経路によって区別*1されるべきなのでしょうか。

私は区別されるべきではない、どれも同じであると考えています。もちろん、公衆衛生上、感染拡大防止策を練るためのデータとしては区別するのでしょうが。COVID-19感染者としてはみな同じように治療を受け、回復していけばよいのです。区別する理由は見当たりません。

噂をする方々は「このご時世に風俗になんて行くから」と言うのですが。風俗に行ってはいけないのですか。そのような決まりはありませんよ。「決まりはなくても、そんな危険だとわかってて」と、ああそうですか。

喫煙者を医療から追い出していいのか

突然ですが、たばこのパッケージを見たことがありますか。現在のパッケージではその半分ほどの面積を使って、肺がん、心筋梗塞脳卒中肺気腫の危険性を高める等、健康上悪影響の警告がなされています。時を経るごとに警告表示は強くなってきましたが、警告そのものは1972年から存在しています。約50年前からです*2。たばこを吸うことが多くの病気の原因となることを知らない人は、今やいませんよね。

しかし、たばこを吸ってはならないという決まりはありません。ああ、はいはい。「決まりはなくても、そんな危険だとわかってて」ですよね。

例えば、あれこれ警告されている中の1つ、肺気腫を含むCOPD*3の原因の90%は喫煙です*4看護学生に対する講義で呼吸器内科医に「国内においてはほぼ100%たばこ」と言わしめるほど、たばこが原因であることが明確な病気です。そして我々日本国は、この病気の治療に年間8,050億円を突っ込んでいると試算されています*5。日本の医療費総額は42.6兆円ですから、COPDだけ見ても喫煙者は1.9%の医療費を消費しています。 危険だとわかってて喫煙していた連中を医療から追い出せれば、その分を浮かせることができます。いかがいたしましょうか。

ましてや、喫煙者の多くは20歳未満から喫煙しています。「決まりはなくても」ではありません。決まり、日本国の法を守ってすらいないのです。さあ、もっと蔑むといいよ。

いいの?

喫煙以外にも例はあります。性行為によるHPV感染、子宮頚癌なんてどうですか。こちらなど、ワクチンで防ぐことすらできるのですよ。

病を憎んで人を憎まず

病気になる危険性のあることをして、病気になった。自業自得だ。それはその通りだと思いますが、受ける報いは、病気になるだけで十分では。病気になるのはとても辛いことですよ。

医療従事者は淡々と治療するのみ。コスプレソープで3Pした結果入院に至った患者だろうと、ろくに休みもない真っ黒な職場で働いた結果入院に至った患者だろうと、最善の医療を提供するのみです。

心ない噂は控えましょうとか綺麗事を言うつもりはありませんが。どうやって罹患しようとCOVID-19はCOVID-19で変わりません。感染経路で差別するのは*6、いかがなものかと思います。

熊鈴着けてまで山に入るってのも、同じだなぁとふと。

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*1:あえて差別とは言わないが、噂をする方々に理解を示すわけではない。

*2:Wikipedia 「たばこ警告表示」

*3:慢性閉塞性肺疾患。今やCOPDの方が通りがいいかなと思います。

*4:GOLD日本委員会 「COPDの原因」

*5:Cost impact of COPD in Japan: opportunities and challenges? 2004年現在と古いのですが、そうそう死なないことを考えれば今の方が額は大きいでしょう。

*6:差別って言っちゃった。