夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

第108回看護師国家試験を味わう(4) 今もそこにある結核(午前33)

第108回看護師国家試験を味わう連載。今回は日看学協からの物言いはなかったものの、厚労省が「採点除外等」とした問題。

病気と政策の狭間で

平成27年(2015年)の日本の結核対策で増加が問題とされているのはどれか。

  1. 新登録結核患者数
  2. 菌喀痰塗抹陽性の肺結核患者数
  3. 外国生まれの新登録結核患者数
  4. 新登録結核患者における20歳代の割合

(第108回看護師国家試験(午前33)より)

国家試験対策における結核は感染経路(飛沫核感染、空気感染)とツベルクリン反応におけるブースター現象ぐらいでしょうか。疫学から、それも現在の事情を問うてくるとは予想外。そんな問題ですから作る方も不慣れだったのか、ついやってしまったのかも知れません。

厚労省が「設問が不明確で複数の選択肢が正解と考えられるため」として正答を3もしくは4としました。

平成27年(2015年)の日本の結核対策」とまで書かれているので、そのものがあるのかと探したのですが見つかりません。では統計から解いていきましょう。選択肢1, 2はザックリ言って「最近、結核患者は増えてるの?」という問いで、答えは「いいえ、減ってます」となります。ここは感覚的にも辿り着けるところかと思うので、試験問題として結局は難度が低かったことになります。詳細な数字は「平成27年 結核登録者情報調査年報集計結果」、あるいは最新版「平成30年 結核登録者情報調査年報集計結果」をご覧あれ。

結核を初めとする感染症には、必ず感染源があります。どこかからやってきた細菌やウイルスが人体に入り込むことをきっかけに、その人は患者への道を歩み出します。この問題で問いたかったのは、結核患者減少の傾向を維持していく中で*1危険な要素はどれかということじゃないでしょうか。つまり、新たな感染源として警戒すべきはどれか。当初想定されていた正答は3だったのでしょう。

国内では結核はもはや珍しい病気と感じる人が多いかと思います。しかし世界的には現在も猛威を振るっている病気の一つ。今も新たな患者が1,000万人/年で増えており、150万人/年がなくなっているとWHOは推計しています。世界人口は75億人と見積もられていますから、その0.13%、1000人に1人は新たに結核患者となっているという勢いです。2016年時点で世界の死因第10位に入るほど。

外国人労働者や外国人観光客の増加をもくろむ我が国が結核において注意しているのは、「外国」が持ち込まれること。つまり選択肢3です。「平成27年 結核登録者情報調査年報集計結果」でも「平成27年の外国生まれ新登録結核患者数は1,164人であり、前年から63人増加した」とわざわざ解説されているように、近年の集計結果では必ず明記されています。平成30年度版では「外国生まれ新登録結核患者数は、前年から137人増加して1,667人」ですね。やはり意図した正答は選択肢3だったのでしょう。

意外と身近な結核

選択肢4の「新登録結核患者における20歳代の割合」についても統計から解いていきましょう。厚労省結核(BCGワクチン)ページより上述の年報「結核登録者情報調査年報集計結果」を何年度分か開いて、2000年(平成12年)以降を新規患者数とともにグラフにしてみました。

新登録結核患者数(20-29歳)

全体として新登録結核患者数が減少を続ける中、2013年以降、20歳代は横ばいです。そのせいで割合としては増えてしまっている。ここで問題の2つめの正答である選択肢4が導かれるわけですが、問題作成者には全体としては減っている傾向と、2013年までの流れが頭にあったんでしょうか。

近年の新規結核患者数の減少は高齢者によるもので、若年層は全然減っていません。同年報から新登録結核患者数を年齢階級別にグラフにするとわかりやすい。

新登録結核患者数(人)

高齢者世代においては結核が蔓延していた戦争直後までの世代が抜け、戦後の結核を減少させてきた世代に入れ替わっていくので、劇的に減っています。しかし結核を過去の病気として生きている年齢層では意外と結核が減らせていないんですね。これを前述の外国からの流入に影響されていると見るか、高齢患者からの感染が防げていないと見るか。数から言えば圧倒的に後者。外国生まれ新登録結核患者(全年齢)1,667人に対し、日本生まれ新登録結果患者(60歳以上)9,137人。5倍以上。今の日本がまず警戒すべきは高齢者からの感染拡大なのでしょうが、政治的に、高齢者を遠ざけかねない注意喚起は難しい。ただでさえ足りていない介護員が減るようなことは避けたく、かといって高齢者介護にかける金など増やしたくもない。そんなところでしょうか。

ロミオの青い空 DVDメモリアルボックス

ロミオの青い空 DVDメモリアルボックス

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

*1:この裏側には先進国としては日本の結核罹患率が高いことがある。けど、それはさておき。

稚内が受け取った危険なクリスマスプレゼント

あけましておめでとうございます。冬コミあわせの修羅場で繰り下げていた答え合わせ。

Good Evening Wakkanai City. December 25, 2019

稚内北星学園大学、事実上の廃止へ

予告通り稚内市長 工藤広は12月25日、市議会全員協議会で稚内北星学園大学の今後を発表しました。各社報道をまとめるとこんな感じ。

  • 学校法人育英館京都市)に譲渡する
  • 2020年4月から理事長は現育英館理事長 松尾英孝に、理事会構成員の半数を育英館からの人員に
  • 2020年度は現行の情報メディア学部を維持する
  • 2020年8月を頃までには大学名を変更する
  • 稚内市は期間未定ながら財政支援を継続する
  • 育英館は京都にサテライト校を設置予定

本件は全国紙でも報じられ、日経は「北海道の稚内北星学園大存続へ 京都の学校法人が支援、朝日は「「国内最北の大学」京都の学校法人が経営を継続」と見出しをつけています。地方紙の北海道新聞は「稚内市長「北星大存続へ最善の道」 育英館から経営陣受け入れ」、地元の稚内プレスは「北星大に救いの手 京都の学校法人「育英館」」という具合です。各社はいずれも「大学存続」と報じていますが、事実は好条件での売却、現大学の廃止*1です。稚内市側から見ればマイナス価格で売り払う、育英館側から見れば金と居抜き物件と得ることになります。

騎士の主は誰か

居抜きで新しい大学が入ってくるなら悪くないんじゃないか。そう思う向きもあるでしょうが、入ってくるのが育英館なのが気になるところです。同法人は2017年にも居抜きで大学、苫小牧駒澤大学を得ているため、その辺の手腕は手堅く心配ないのですが。

育英館は中国の学生を日本へ流す教育ルートを構築するための学校法人です。そのために中国にも日本にも学校を持っており、このことは理事長 松尾英孝が公言しています*2。中国色が強い同法人ですが、産経の報道*3によれば、理事会には共産党員もいるとのこと。

ところで中国と言えば昨今、アメリカおよびその周辺で5Gインフラを中心にHuaweiの通信機器を使用禁止にする措置が執られています。通信内容が筒抜けになる、安全保障上問題があるためだとか。実際のところは情報セキュリティという観点では評価が難しい話で、経済的な価値の大きい措置なのだろうと見ています。

本当に彼らが安全保障上、他国を脅かしたかったら何をしたらいいのだろうか。ある国を自在に操るためにはどうしたらよいのだろうか。その手法の一つは教育を乗っ取ることです。我が国でも古くから知られている手法ですね。他国を乗っ取るという形ではないにしろ、自国を思い通りに操るためであれば我が国でも僅か80年前に行われてたことです。

つまり、そういうことだろうと私は考えています。稚内市は中国に、教育機関を謝礼金付きで譲渡することを決めた。悲惨な話です。

しかし報道各社は歓迎ムードで情報を流し、公共セクターに対して理不尽に厳しい地元の稚内プレスですら「経営危機にある稚内北星大学にホワイトナイト(純白の騎士)現わる」と好意的に報じています。我が国の目は一体どうなっているのだろう。「お前ら、大学で何やってたんだ?」と言いたいところですが、稚内では「大学なんか行ってないよ」と返されてしまいますね。厳しい。

個人的な予定は変わらず、来春をお楽しみに

前回、稚内北星学園大学の市民聴講生になることを試みると書きました。ここは変わらず、有言実行。入学シーズンになったら問い合わせてみましょう。廃止になった夜間も含めて、今回の件で当blog的におもしろい方向になったらいいなとも思っております。

「御真影」に殉じた教師たち

「御真影」に殉じた教師たち

  • 作者:岩本 努
  • 出版社/メーカー: 大月書店
  • 発売日: 1989/04
  • メディア: 単行本

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

稚内北星学園大学、身の丈に合わせて廃止か

大学の存続を願う人が1人でも増えたらいいな。てことで。

稚内北星学園大学は山の中

朝から珍しく稚内の話題

今朝、眠くて吐き気のする朝食中のこと。ラジオから稚内の話題が流れてきました。しかも一聴してNHKのexclusiveであろうことが感じられる大物です。

稚内市北星学園大廃止表明へ

学生の定員割れが続いている宗谷地方唯一の大学、稚内北星学園大学について、大学と、財政支援を行っている稚内市が廃止する方針を固めたことが関係者への取材でわかりました。稚内市の工藤広市長は年内にも市議会の全員協議会の場でこの方針を示す考えです。

稚内北星学園大学は、情報メディア学部を置く宗谷地方唯一の大学で、現在およそ120人の学生が在籍していますが、定員割れによる赤字経営が続き、大学や財政支援を行う稚内市は廃止するかどうか慎重に検討を進めています。 そして、来年春の入学者の募集状況を踏まえるなどした結果、学生の確保は今後も厳しい状況が続くとして、大学を廃止する方針を固めたことが大学関係者への取材でわかりました。

これを受けて、稚内市の工藤広市長は年内にも市議会の全員協議会の場で廃止の方針を示すとともに、大学は廃止の具体的な時期を決めることにしています。 一方、来年度については、市がすでに財政支援を決めているほか、大学も入学者を受け入れることにしていて、すべての学生が卒業するまでは大学を存続させるとしています。 大学関係者はNHKの取材に対し、「今後も定員割れが続く見通しで、廃止は残念だがやむをえない。学生が困らないよう、全力で対応していきたい」と話しています。

稚内市長 北星学園大廃止表明へ|NHK 北海道のニュース (Internet Archive) より)

市民としてはいよいよかと思う反面、来年度の募集中、しかもその広告が稚内市公報に載ったばかりのこの時期にリークしたであろう稚内市筋の行儀の悪さも感じました。

私がこれを聴いたのはNHKラジオ第1で0720頃に流れる北海道地方のニュースでした。そして日勤から帰ってきて、いつも通りにニュースをザクザクと読んでいてちょっとした騒ぎになっていることに気付きます。

本日、NHKが「稚内市北星学園大学廃止表明へ」というニュースを流しましたが、誤報です。市長がそのような表明をする予定はありません。また「大学関係者」が語ったとされるコメントも出ていますが、本学では誰も取材を受けていません。稚内市と協議の上、NHKに対して謝罪と訂正を求める所存です。

稚内北星学園大学×COC on Twitter より)

稚内北星学園大学が真っ向から否定。同大学のウェブサイトにも同様のお知らせがあります。大学側の話を受けてか、Internet Archiveによれば、0617には存在した件のNHKニュースのページは、0805には消えていたようです。

NHKよ、お前も「身の丈に合わせて」と言うのか

稚内北星学園大学宗谷管内唯一の大学。同大学が失われれば、例えば稚内市民が大学に行くために名寄市立大学まで3~4時間かける必要があります。公共交通機関はJRのみ、午前中到着できるのは2本、到着時間帯を終日にしても6本しかありません。

NHKは今年の9月、導入中止が決まる前の大学入試における英語民間試験について、こんなことを言っていたのです。

テストは本当に公平か?

(中略)

都市部と地方の高校の「格差」です。

北海道稚内高校。

「民間試験」の会場はまだどこになるか、わからないといいます。 もし稚内市内に設けられないと、札幌まで往復およそ10時間以上かけて試験を受けに行かなくてはなりません。

列車代だけで、およそ2万円。

宿泊代も重なると、経済的な負担も大きくなります。

テストは本当に公平か? - 特集ダイジェスト - ニュースウオッチ9 - NHK より)

NHKに限らず、萩生田光一文科相の「身の丈に合わせて」発言を散々叩いた連中は今、何をやっているのか。そのとき都合よく使ってくれた稚内が今*1、こんなことになっているのだよ。本当は彼らこそ、稚内を「身の丈に合わせて」と蔑んだ目で見ていたのでしょうね。

存続を願う私にできるたった一つのこと

すでに上述しお漏らししてしまいましたが、私は件のニュースを稚内市筋のリークであると見ています。稚内市にとっては金を食うだけのお荷物になっているものの、市議会の反対が(意外と?)根強くなかなか切れない今、外堀を埋めて一気に事を進めようと狙っているのでは。つまり、廃止は概ね決定なのでしょう。もちろんこれは私の憶測に過ぎませんが、どこから話が出うるのかを考えればあながち外れてもいないはず。

憶測はさておき、私は稚内北星学園大学の存続を願っています。いつかも書いた通り、なぜか学問が好きなんですよ。しかし今の私は廃止が残念と言うことができるほど同大学と関わっていません。私が大学と関わるとしたら、食堂や図書館に行くか学生になるか。この状況に対して食堂や図書館へ行っても役に立たない。となれば学生になるしかない。幸い、夜間はなくなってしまいましたが市民聴講生制度は残っているようです。来年度は聴講生になってみようかなと思います。では、この続きは春が訪れる頃に。

追記: 翌日の珍事

NHKがまさかのお詫びを出しました。

稚内北星学園大 存続目指し調整

(中略)

このニュースを19日の「おはよう北海道」や「ひるまえナマら北海道」などで放送した際、「大学と稚内市が廃止する方針を固めた」とお伝えしました。

しかし、事実関係の確認が不十分でした。

学生や教員をはじめとする大学関係者や稚内市にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

稚内北星学園大 存続目指し調整|NHK 北海道のニュース

本日は北海道新聞、日刊宗谷にも記事が載り、NHKの新たな記事も含め言っていることは皆同じ。第三者に譲渡の可能性を示しており、25日の市議会で市長が発表すると。結果として、稚内市が切り捨てたとて許される流れを作った昨日のNHK報道。マスメディアの効果的な使い方です。あくまで憶測と繰り返しますが、稚内市筋の行儀の悪さには開いた口が塞がりません。

何にせよ、私は廃止の方向だろうという見方を堅持しています。理由は簡単。大学には学生が必要で、同大学には学生を集められる見込みがないからです。尤も、よほど改革を得意とする第三者が譲り受けて、たちどころに人気を集める大学に再生させられる話も変わってきましょう。

つづき

nsns.hatenablog.com

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

*1:少なくとも6月からですが。

第108回看護師国家試験を味わう(3) とにかく押しとけ?(午前5)

さて、寒くなると再開される連載、看護師国家試験を味わう。しばらくは試験問題に対する日看学協の物言いを通じて、試験を味わっていきたいと思います。第107回に対しては日看学協の物言いが適当か否かって視点でしたが、第108回からは純粋に試験問題とその周辺を味わう道しるべとして物言いを使うという感じで行きます。

この機に一次救命処置の優先度を理解したい

午前の、それも5問目が、第108回で最も話題になった(と思う)問題となりました。

呼びかけに反応のない患者に対し、医療従事者が行う一次救命処置で最も優先するのはどれか。

  1. 気道確保
  2. 胸骨圧迫
  3. 人工呼吸
  4. 除細動

(第108回看護師国家試験(午前5)より)

私自身は、当然2だよねって何の迷いもなく解いたのですが。その後、Twitterや日看学協の物言いで、1を選んでいる人も多いと知りました。界隈で有名なメディックメディアの「ネコナースの合格予報」によると、3月5日22時時点で1を選択が48%、2を選択が51%と、綺麗に二分していました。

厚労省の結論は「採点対象から除外する。」「設問が不十分で正解が得られないため。」得点調整じゃねーの? なんて思っちゃうのですが、どーなんですかね。現場じゃ不十分だから除外ってわけにはいきません。

肝は脈拍および呼吸の状態が不明なこと。つまり脈拍と呼吸の有無が判断できない。

となれば、日看学協が持ってきた『JRC 蘇生ガイドライン 2015*1でも、「傷病者に反応がなく、呼吸がないか異常な呼吸(死戦期呼吸)が認められる場合、あるいはその判断に自信が持てない場合は心停止、すなわち CPR の適応と判断し、ただちに胸骨圧迫を開始する」とあり、2が選択されます。まず呼吸で判断していくのがJRC流で、これがこの問題に対する誤解に結びついていると感じます。

AHAの「Adult Basic Life Support」では「The healthcare provider should take no more than 10 seconds to check for a pulse and, if the rescuer does not definitely feel a pulse within that time period, the rescuer should start CPR beginning with chest compressions.」となっています。pulseでの判断が重視され、no pulse(疑い)ならば胸骨圧迫になります。やはり選択肢2です。加えて言うならば、AHA BLSでは現在、CPRの優先度をCirculation-Airway-Breathingと明確にしており、どれが優先と聞かれたらCirculationを保つための胸骨圧迫です。

JRCもAHAを意識しているはずなのですが、なぜ古いA-B-Cを中途半端に引きずってしまったのでしょうか。まあ、この問題には関係ありませんね。この問題では上述の通り2の選択が基本です。

結局採点対象外となったこの問題ですが、一次救命処置は看護師となったあとに行うことです。しっかり考える機会が得られたと思えば、受検者的には二度おいしい問題でしょう。かくいう私もこの記事を書きながら、改めてBLS講習を受けて、ACLSを目指そうかなと思いました。

BLSプロバイダーマニュアル  AHAガイドライン2015 準拠

BLSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2015 準拠

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

*1:Japan Resusciation Council。Japan Red Crossじゃないんだって思った。

災害対策として発電機購入助成が始まる

先週、VFR800Fに乗り中山峠を越えんとするときにPGM-FI警告灯が点灯してしまい、峠の道の駅で札幌へと引き返し今年のバイク旅は終了しました。バイクを冬季点検に預けるべくディーラーで手続きをしていると、両脇からなかなか興味深い会話が。右隣はCBR1100XXのオーバーホール上がり。エンジンをばらしてカムチェーン等を交換したようで、まだまだ乗るんでしょうね。北海道を旅するにはよさそうなバイクです。

さて、左隣の話題が今回のネタ。

苫東厚真発電所

札幌市が在宅酸素療法の災害対策として発電機の購入助成を始めた

経鼻酸素カニューレをつけて、酸素ボンベを転がしながら現れた客。どう見ても在宅酸素療法、通称HOTの患者です。時節柄、除雪機のメンテか購入かなと思ったら、発電機の話をしているんです。どうやら停電に備えて発電機をお求めのご様子。しかも、札幌市の助成金が出ると言ってるじゃありませんか。後ほど調べてみると、札幌市は2019年10月から「札幌市障がい者等災害対策用品購入費助成事業実」として、在宅で人工呼吸器や酸素濃縮器を使う市民向けに、発電機購入を助成しているのです。

ざっとウェブを検索した限りでは他の自治体の例は見つけられず、全国でも珍しい施策のようです。前触れもなく大規模停電を起こした北海道らしい取り組みですね。その停電時、在宅酸素療法導入者向けに避難所には発電機を完備すべきと唱えた私です。札幌市には大きな拍手を贈ります。素晴らしい。

nsns.hatenablog.com

札幌市の人口は約190万人、在宅酸素療法導入患者は1,900人程度*1、在宅人工呼吸器使用患者は36人程度*2と推測されます。一方、札幌市が有する一般病床数は約22,000*3。病床に対して約9%と稚内市よりは低いのですが、十分に大きな数字。これだけの「元気な」患者が災害時に病院に押し寄せたらと考えると。ましてや札幌の病院には災害時、北海道各地から重症患者が空輸されるでしょうからね。助成金を最大に見積もって2.3億円、歳入の0.02%、税金使ったらいいじゃないですか。発電機購入として市場にも確実に環流し、最高ですよ。

全国的に発電機購入助成が広まってくれたらいいなと思います。特に北海道や千葉県は、経験を糧に先鞭をつけましょうよ。稚内も、ね。ゴルフ場やカーリング場より安いから。

ふと思い出す燃焼の3要素

可燃物、点火源、そして酸素供給源。

在宅酸素療法にあたっては火災予防のため、ガスコンロの使用も禁じられるほどなんですよね。尤も、喫煙、COPD、在宅酸素の流れが多いので、禁煙できずドカンとやっちゃう例もあるんですが。多くの発電機はガソリンが燃料ですから3要素中2要素が、それも最高の2要素が揃ってしまうので、それはそれで危険なんでしょうかね。ガソリンは空気中の酸素と静電気で十分にドカンとやれますので、在宅酸素療法がどうのって言う必要もないかなと思います。

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

*1:以前の記事を読んでね。

*2:厚生労働省在宅医療の現状」によれば2016年の在宅人子呼吸器使用患者は全国で約2.4万人、全国に占める札幌市の人口比率をかけ算。

*3:2014年時点。「札幌の医療に関するデータブック」より。

病院まで何時間?

お久しぶりです。3ヶ月半も空いてしまいました。夏コミ合わせのお休みはいつものことなのですが、今年はその後、あちこち旅していたりその準備だったりで記事を認める時間を取れませんでした。今回は旅で仕入れたネタも、稚内の話も、そして病院の話もごった煮でお届けいたします。

An ambulance left our apartment house.

峠道で見かける「病院までx時間」

北海道で内陸部を走るとなると、あちこちで山を越える峠道を通ることになります。三国峠や霧立峠は全国的にも有名ですね。バイク乗りとしては気持ちよく走れる道の一つですが、同時に、怖い道の一つでもあります。ワインディングロードとも称されるように曲がりくねっており、事故りやすい道。北海道、しかもその山の中ですから交通量は少なく携帯が圏外のところすらあり、ここで事故ったら助からないだろうなという感覚はちょこちょこ抱きます。

そんな峠道でたまに見かける看板があります。

病院搬送まで2時間

例えば霧立峠ではこれ*1。言わんとしていることは「ここで事故ったら助からないよ。スピードは控えめに、慎重に走れ」ってこと。

宗谷岬から病院までは何時間?

さて、話は変わりますが、昨年より9月の初めに「日本最北端わっかない平和マラソン」なるマラソン大会が行われています。まだまだ抜けるような夏空の下、最北端ならではの涼しい空気の中走れるとあって、それなりに人気のある大会になっているようです。稚内側から見ても新たな観光資源として力を入れている大会でもあります。

意外かも知れませんがマラソンってのは結構危険な競技です。起こるんですよ、突然の心肺停止が。突然の死が。

2/10万参加者が心肺停止に陥るという調査結果*2があります。0.5~2/10万参加者が心肺停止に陥り、その半数は死亡なんて調査結果*3も。参加者3万強~4万人弱の東京マラソンでは、2007年から2018年の間、均すと1人/1大会が心肺停止*4となっています。心肺停止が起こった場合、その場で胸骨圧迫とAEDにより心肺蘇生、そして病院へと救急搬送され治療となります。

さてここで問題です。日本最北端わっかない平和マラソンの会場、宗谷岬から病院までは何時間でしょうか。

答えは「病院まで2時間40分」です。

え? 宗谷岬のある稚内市に、病院あるよね? って思いますよね。ええ、あります。宗谷岬から市立稚内病院まで、30分強でしょうか。しかし市立稚内病院には循環器科がありません。突然の心肺停止、循環器疾患を専門に扱う診療科がないんですよ。循環器疾患に本格的に対応するとなれば、2時間40分かけて、170km離れた名寄市立病院へ搬送します。*5

霧立峠での走行と、稚内でのマラソン

ここで2つの話が合わさります。「病院まで2時間」という命の危険を知らせる看板がある世界において、「病院まで2時間40分」という状況下で行われるマラソン大会。参加を考えている方は、心した方がよろしいかと思います。峠道もマラソンも「スピードは控えめに、慎重に走れ」るのですか、ねぇ。

今年の日本最北端わっかない平和マラソン開催中、私は「循環器科のないところでよくマラソンなんかやるねぇ」と思って某病院で勤務しておりました。実際に心停止があったと聞き、いわんこっちゃないと思ったのはその後のお話。*6

あ、勘のいい人は気付いているかと思いますが。稚内心筋梗塞とか発症したら。運良く地元で対処できる体制のある日もございますが。*7

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

*1:後日、2020年の夏に撮影してきたもの。この記事を書いた2019年には「病院まで2時間」と書かれ、下に心電図の絵が添えられた看板だった。

*2:白川透, 田中秀治, 喜熨斗智也, 高橋宏幸, 後藤奏. 2013. マラソン大会における心停止の発生頻度. 国士舘大学体育研究所報, 32, 127-130.

*3:武者 春樹, 藤谷 博人, 油井 直子, 立石 圭祐, 谷田部 かなか, 寺脇 史子. スポーツ中の突然死の動向と展望. 体力科学, 2014, 63 , 1, 69.

*4:第1回 マラソンランナーと突然死の関係

*5:救急車で名寄の他、ヘリコプターで旭川や札幌へ搬送になる場合もあります。

*6:今回は最終的に、ヘリコプターで名寄搬送となったようです。

*7:稚内プレスにこの辺の記事があったはずなんですが、見つけられず。

エガオノタイカ

ナースキャップにワンピース白衣

地元病院を攻撃しがちな地元紙『稚内プレス』の6月17日付に、またもやアグレッシブな記事が載っておりました。

 と、小欄を執筆中の15日昼前、最近、市立稚内病院を退院したという90代の女性から「読者コーナーへ」と電話があった。歩いてトイレに行けるようになったのに「用は便器で」「忙しいので呼び出しベル押さないで」などと看護師から言われ、その看護師が数人集まればぺちゃくちゃ喋っており入院中、不快な思いをしたと言う。

 入院できるのは市立病院しかないので仕方なく入院したものの、個人病院で入院できれば市立に行くことはないとも。

 嫌われたものだ。

 入院したことがない筆者には病院の実状など分からないが、偶に札幌や旭川の病院に入院している親戚や知人を見舞うことがあり、その時思うのは言動と目の優しさである。医療に携わる者は〝天使〟のようあらねばならない。その対価としてあるのが高い報酬・給与である。勘違いしないことだ。

(6月15日『稚内プレス』、「時の話題 「優しさの対価」 」より)

引用部前半は苦笑して読むほかありませんでした。稚内が凝縮されすぎている。さて、本題は後半です。「優しさ」や「天使」の要求に対して、言いたいことが2点ございます。

賃金の話はしない方がいい

医師はともかく、その他の医療従事者の給与はさほど高くありません。看護師も然り。ここをどうも勘違いしている人が多いことには、看護学生時代から引っかかっておりました。厚生労働省平成30年賃金構造基本統計調査』の値から年収*1を算出してみましょう。全職種平均*2が498.50万円、看護師*3は479.93万円。平均以下なのです。稚内という地域においては高い給与を得られる職業の一つなのかも知れません。しかし件の記事で札幌や旭川と挙げていますからね。そう言いたいわけではないのでしょう。

さらに、医療従事者では少数派も少数派ですが、転職組がいると話はさらに厳しくなります。看護師が全職種平均よりも低い年収なのですから、転職組にしてみれば転職前より年収が下がっていることも多いはず。かく言う私も、新卒として就職したこともあり以前の半額になりました。

むしろ「安い報酬・給与」であることが明らかになったとき、件の記事は「優しさも減じなくてはならない」と主張するのでしょうか。ましてや私など「前職従事時比、優しさ5割が望ましい」と言われるのでしょうか。

診療の話だけをしよう

そもそも、病院に対して安易に「優しさ」やら「天使」やらを求めるべきではありません。病院は診療、つまり診察と治療を行うところ。入院は24時間体制の治療を提供すること。他の何をするところでもないのです。*4

資源は有限です。病院においては有する資源を、最大限診療に投入するのが最善だとは思いませんか。「優しさ」や「天使」に投入した資源は、診療に投入されるはずであった資源から盗まれたものですよ。ある患者の治療に不要な要求に優しく天使のように接する時間や労力は、誰かの治療に必要な時間や労力を削って投入されるのです。

もちろん、だから非道な行いも許されると言いたいわけではありません。そんなことはこの記事も意図していないかと思います。

白衣の天使を求めるのは高齢者社会の課題?

言いたいこと2点をつらつらと書いてきてふと思ったのは、90歳の方が優しい天使に癒やされたいとき、どうしたらいいんでしょうね。若い方には「キャバクラでもホストクラブでも、お金出して優しくしてもらったら」とでも言ってやれますが、高齢者には何を勧めたらよいのでしょうか。名案がすぐには浮かびません。

高齢者社会における不足が、彼らの馴染みの店、病院への要求とならないことを祈ります。

エガオノダイカ 2 [Blu-ray]

エガオノダイカ 2 [Blu-ray]

落ちは『エガオノダイカ』だと思ったでしょう? 残念、ハズレ。

『Pia♥キャロットへようこそ!! G.O.』でした! テーマソングであるすいーつたんけんたいの「スマイル¥0」ですね。

NANANA

NANANA

おすすめ関連記事

nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com nsns.hatenablog.com

*1:「年収=きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額」として算出。

*2:民営および公営事業所(企業規模10人以上)の一般労働者における平均。

*3:民営および公営事業所(企業規模10人以上)の一般労働者のうち看護師における平均。

*4:一般病床の話。療養病床だとそこが生活の全てですから、「優しさ」や「天使」の提供もなされるべき。