夜勤病棟の女神様(仮)

ひよっこナースの日常

Brotherの仕掛けた罠

すっかり月刊と化しているこのblogですが、中の人は相変わらずです。相変わらず余計な締め切りを持ってくるせいで、ここを更新する時間がないわけですな。

顔面神経痛なんて存在しない?

ちょっと前の『茗荷谷 なみだ坂診療所』で、中年の女性が顔面神経痛を訴えて受診する話がありました。医師である鈴香は「顔面神経痛なんて存在しない。顔面神経は痛みを感じないから。痛みを感じるのは三叉神経、だからそれは三叉神経痛」的なことを言うのです。

まったり晩飯を食いながら読んでいた私は「ん? 顔面神経って知覚神経もあったよーな」と思いつつ、深追いすることなくこのことを忘れていたのですが。同じことを口腔外科の授業で言っているじゃありませんか。むむ、調べるか。

顔面神経やら三叉神経やら何のことやらってのが医療に関係しない人たちの感覚かと思いますので、続ける前にザックリ説明しましょう。

まずは「神経」のお話。神経とは身体を動かす、身体で感じるという仕組み一部。脳と身体の当該部位を神経というケーブルで接続して、脳が命令して身体を動かす、あるいは身体の当該部位が感じた情報を脳に伝えると言うことを実現しています。ただ、脳も身体も分業が進んでいまして、動かすことと感じることを両方出来る部位はないと言われています。そこから、ケーブル自体は同じものですが、動かす命令を伝送するケーブルを運動神経、感じた情報を伝送するケーブルを知覚神経と呼んでいます。

次に「顔面神経」と「三叉神経」のお話。言うまでもなく体中に神経はたくさんあるのですが、その中でも脳と身体の部位を直接結んでいる脳神経12対(左右で1対)は特別なものとして、医療方面の学生は覚えることを要されます。そのうちの2つが顔面神経と三叉神経。ちなみに脳神経12対以外の多くの神経は脊髄、いわゆる背骨の中身をハブとして脳と身体の各部位を繋いでいます。

語呂合わせ、その裏に

結論から言えば、顔面神経と呼ばれる神経には知覚神経が存在します。ところがこの知覚神経は舌の前2/3における味覚を伝送する神経なのです。顔面の痛みは顔面神経の知覚神経が伝送しており、上述の通りとなるわけです。

知覚されるのは痛みだけ出ない。味や温度だって知覚する。当然のことなのに、知覚とは何かを忘れてしまっていたが故に「ん?」となってしまったわけですね。お恥ずかしい。

なぜ忘れてしまったかと言えば、私にしては珍しく、脳神経12対を語呂合わせで覚えていたからです。語呂合わせやら何やら、暗記法の裏には物事を単純化させ、ときに認識を物事から遊離させてしまう可能性があることを改めて肝に銘じなくてはなりませんね。

なお、私が使っている語呂合わせはこれ。英語圏では定番のようです。

番号 語呂(英) 名前(英) 名前(日) 語呂(英) 運動/知覚(英) 運動/知覚(日)
I Oh, Olfactory 嗅神経 Some Sensory 知覚
II Oh, Optic 視神経 Says Sensory 知覚
III Oh, Oculomotor 動眼神経 Marry Motor 運動
IV To Trochlear 滑車神経 Money Motor 運動
V Touch Trigeminal 三叉神経 But Both 運動/知覚
VI And Abducens 外転神経 My Motor 運動
VII Feel Facial 顔面神経 Brother Both 運動/知覚
VIII A (Virgin) Auditory (Vestibulocochlear) 内耳神経 Says Sensory 知覚
IX Girl's Glossopharyngeal 舌咽神経 Big Both 運動/知覚
X Vagina. Vagus 迷走神経 Boobs Both 運動/知覚
XI Ah, Accessory 副神経 Matter Motor 運動
XII Heaven. Hypoglossal 舌下神経 More. Motor 運動

今回はBrotherにやられたってことですな。

覚えることが要されるとは書きましたが、看護学生だと覚えている人は少ないって話も...。解剖生理の試験と国家試験の直前に覚えるぐらいの人が多いかも...。

ちなみに授業で学んだときに使った教科書はこれ。おなじみのトートラ。

トートラ人体の構造と機能 第4版

トートラ人体の構造と機能 第4版

脳神経の解説もバッチリ。だけど、医学生すら使うらしい教科書で、看護学生には難しすぎるとなったんですかね。今年の1年生は同じくGerard J. TortoraとBryan Derricksonが書いた少し簡単な教科書になってました。

トートラ人体解剖生理学 原書9版

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