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夜勤病棟の女神様(仮)

りんごと桜の街、看護学生の日常

看護雑誌で今夜も一杯 『整形外科看護 2015年7月号』

1週間お休みをいただき、図書室の雑誌も新刊が出そろった今週。手に取ったのはおなじみメディカ出版の『整形外科看護』2015年7月号です。

表紙には「おかげさまで20周年!」とあります。1995年創刊、古いのか新しいのかよくわかりませんが、Windows 95のリリースと同じ年です。あ、何の参考にもなりませんな。

診療科に応じた専門雑誌はナスたま1年生にとってなかなか厳しいものですが、おすすめ2品、特集2つをいただいてみましょうか。

腰椎穿刺なんて嫌だよねと思うヤツは失格

第1特集は「はじめのはじめからまるっとわかる 整形外科ナースのための 麻酔看護のQ&A34」。「の」で修飾しまくりの特集名に何ら疑問を持たない編集部凄いな。

麻酔薬や医療器具の名前がバンバン出てくる内容ですが、総論と銘打たれた概説はナスたま必見の内容になっていました。そしてこれ、患者候補生のみなさまにもおすすめの内容です。

「総論 整形外科と麻酔看護のQ&A」を担当するのは日本鋼管病院麻酔科部長/中央手術室部長 佐藤公泰氏。旧Nの病院ですね。旧Kの川鉄千葉病院が売り払われたのとは対照的に、今もJFEスチール100%出資の医療法人社団こうかん会が運営しているようです。と、妙にここで細かく説明しちゃうのは、私もJFEスチールのグループ会社にいたからです。

閑話休題。なるほどと思った最初のQ&Aをご紹介。

Q1 全身麻酔と局所麻酔ってなにが違うの?

全身麻酔

麻酔薬を脳に作用させて障害情報への対処を押さえ込む方法です

局所麻酔

神経系のどこかで情報伝達を遮断して麻酔を成立させます

(p.11、強調部のみ引用)

おお! そーゆーことなのか! これは明快ですね。全身麻酔と言えば全身の感覚が麻痺するぐらいの感じでいましたが*1、なぜそうなるかって考えたことはありませんでした。敵の大将を引っ捕らえればってことですね。

しかし、大将を捕らえても敵が全面的にだんまりになるかと言えばそうでもない。その辺のことが、特集と連動したのか、連載「整形外科ナースのためのお悩み相談室」に端的に説明されていました。解説は北里大学医学部麻酔科学教室 佐藤克彦氏です。

Q 整形外科領域での手術について、全身麻酔と局所麻酔はどのように使い分けられているのでしょうか。

A 全身麻酔はどんな手術にも対応できますが、四肢の手術における鎮痛の質では局所麻酔が優れています。術式と患者背景に応じて術後も含めてリスクが低く、QOLの高い麻酔方法を選択する必要があります (p.72)

特集も含めて読むに、膝蓋の手術などは全身麻酔だけでは痛いみたいなんです。人体ってのは難しいものですな。

ここまで読んで私と同じことを思った方もいらっしゃることでしょう。局所麻酔って、全身麻酔に比べて危険なんじゃないの? と。そんな雰囲気のあるQ&Aですよね。危険かどうかは難しいのですが、その答えはそれぞれの投薬方法にあります。

  • 全身麻酔: 吸入もしくは静脈注射
  • 局所麻酔: 主に背中や腰に注射(硬膜外穿刺や腰椎穿刺)

うわー、痛そう。そう思いますよね。もちろん痛いので、麻酔薬注射のための麻酔もするのですが。背中や腰に注射を打ち込まれたい人はそうそういませんよ。

局所麻酔を選択できない理由の一つに、患者の同意が得られないってのが挙げらます。この説明が傑作なので、また寄り道しちゃうんだけど。

そして意外に重要なことですが、十分な説明をしても患者の同意や協力が得られない場合は区域麻酔*2を行うことはできません。そもそも区域麻酔は患者受けがあまりよくありません。「背中の注射はどうしてもイヤ」、というのは術前診察ではよく聞かれる訴えです。

(p.73、註釈は筆者による)

「意外」だそうですよ。そして若干小馬鹿にした言い回し。編集部もよくこれを通したなぁ。校閲、腐ってるだろ。これが医療業界、医療従事者の感覚なんだと彼らも訴えたかったのだろうか。

ちょうど今、日経新聞の朝刊で「医出づる国」第5部が連載されていて、この辺の話です。興味がある方は読んでみてください。医療従事者と言うより、一般教養をすっ飛ばして一本道来ちゃった連中の欠陥なんじゃないかと私は見ています。故に医療業界の人間が全部ダメなんて言うつもりはありません。実際、某病院の院長もおっしゃっていました。大学から文系をなくそうなんてとんでもないと。

今やinformed concentは医療の基礎。と言えればよかったのでしょうが。某病院の某先生は、患者と向き合わない医師が多いとお怒りのご様子でした。そんなときこそ看護師の出番だって話になるのはどーなんだろうと思いつつ。社会人からの転向組には患者のために医師を殴れる強さが期待されているのかなと、昨今の看護学校入試事情に思ったりもします。

全身麻酔か局所麻酔かって話に戻しますと。このQ&Aも興味深いですね。全身麻酔を選択する理由の一つにこんなのが。

Q5 一般的な整形外科手術での麻酔法の使い分けを教えて!

(中略)

  • 局所麻酔による神経損傷を絶対に避けたい場合→プロスポーツ選手など

(p.16)

人体の価値は等しくないんだよ。わかりやすいんだけどね、言葉を選ぼうよ。とかまあ、もうこの辺にしておこう。

ところで、パラパラとページをめくっていたら見慣れた「PENTAX」ロゴを発見。すっかり忘れていましたが、HOYAが欲したのはこの領域だもんね。気管チューブの挿入器具としてAirway Scope AWS-S200が紹介されていました。

エアウェイスコープ―映像で学ぶ基本操作

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3文字略語を理解したら失格

気を取り直して第2特集行ってみよう。「ドキドキを自信に変えよう! はじめての夜勤シミュレーション」とどこかで聞いたことのあるような...。

nsns.hatenablog.com

とは言え、こちらの方が詳しく具体的でおもしろかったです。途中まではね。

この雑誌、どうしてこうも愚かさを主張したがるのだろう。JCHO京都鞍馬口医療センター A7病棟看護師長/認定看護管理者 北訓美氏による「夜勤シミュレーション これであわてない! 事前予習編Q&A」が強烈です。

報告・連絡・相談を徹底しよう

もちろん、術後の患者を受け持つようになっても、まず指示を確認し、薬の投与は先輩ナースと確認してから実施します。あくまでも新人ナースが大切にすべきことは「報告・連絡・相談」です。先輩ナースに迷惑をかけないことが大切なのではなく、思い込みが一番危険だということを理解して行動しましょう。

(p.83)

お前みたいのが管理者にいることが一番危険だということを理解して行動しましょう。

ひどいことに、この「報告・連絡・相談」とやらが評価に繋がるとまで記されています。頼むからお前が理解してくれ。

医療業界では昨今EBMというものが持て囃されているそうです。Evidence-Based Medicine、日本語では「根拠に基づいた医療」と訳されています。おかげで「根拠は?」と看護学生ですら年中言われるのです*3。そう、確かに年中聞けるのですが。都合のいい場面でしか出てこないと言えばそうかも知れません。

引用部を読んだ私は言わねばなるまい。「報告・連絡・相談」の根拠は? と。この俗に言う「ほうれんそう」は山種証券の社長であった山崎富治氏の言葉、あるいは著書によるものです。つまりその言葉なり著書なりが根拠になるのですが、たったこれだけの説明すらできない連中ばかりだよね。北訓美氏も同連中の一人であることを、原典『ほうれんそうが会社を強くする 報告・連絡・相談の経営学』のまえがきの初めの文章が示しています。本当に最初の1行。

先日、ある会社の新社長が来社され、「私の社長第一声は、これからポパイになるよ、ということでした」という話をされた。

(山崎富治(1986)『ほうれんそうが会社を強くする 報告・連絡・相談の経営学』, ごま書房, p.3)

「報告・連絡・相談」ってのは、それをする構成員に「報告・連絡・相談しろ」と言うことではない。経営側が「報告・連絡・相談しやすくする」ってことでしょう。そもそも社長が解いていること、せめて「経営学」と銘打たれていることから気付いて欲しい。

「評価が上がる」という餌で「報告・連絡・相談しやすくしている」って? 本当にそう思ってるなら、2,000億円ほど準備してお好きにやられてはいかがでしょうか。もう、言うことはありませんな。

ほうれんそうが会社を強くする―報告・連絡・相談の経営学

ほうれんそうが会社を強くする―報告・連絡・相談の経営学

麻酔の概説はよかったんだけどなぁ。どうしてこんなまずい酒になってしまったんだろう。尤も、一杯飲む肴になったことは確かだぁね。

*1:まだ麻酔に関して学んでいません。学んでこれだったらヤバいけど。

*2:局所麻酔と同義。

*3:某IT業界で言う「要出典」程度の意味も含め。